君に告げるlast




目が覚めると、掘っ立て小屋のような天井が見えた。

―――――――ここは、どこだろう?

「目が覚めたか」
穏やかな、機嫌のいい男の人の声がする。
顔を声のほうへ向けようとするが、だるくて動かない。

「ここ、は・・・?」
「野戦病院だよ・・・ヒューズもここにいる」

野戦、病院・・・

ぼうっとした頭で、記憶をたどる。
白い霧が頭にかかったように、思考回路がハッキリしない。

たしか、戦地で治療をしていたはずだ。
重症度に応じて目印の札をかける。応急手当をする。

砲弾の中。・・・・でも、気付いたら意識がなくて・・・



そうだ。目が覚めたら、自分が怪我をしていた。

強く打ち付けられたようで、身体中が痛くて動けない。呼吸すら辛い。
おまけに、大腿部と腹部に出血。
動脈を傷つけたかもしれないと、死を覚悟して・・・

なのに、ここは野戦病院?

「あたし・・・生きてる・・・」

かすれた声。自分の声じゃないようだ。

「ああ、生きてるよ。危なかったがね」

男の人の声。この声を知っている。大好きな人。
自分には過ぎた人だと、ずっと片思いしていた。


「しかし、驚いたものだ」
声の調子が変わる。なんだか本当に驚いているような、大仰なような.


「私はまだ、君と寝ていない」
寝たままのは、目が点になる。

「女にモテるのが取柄なのに、プラトニックで別れるなんてありえない。
、治ったら一緒に連れていく。わかったね。」

こんな台詞なのに、優しい声。


「あたし・・・だって、ひとをころし・・・」
。それを言うなら、私は人間兵器だよ」

穏やかに、諭す声。でも、その内容の鋭さに、は言葉を飲み込む。

「私こそ、君にふさわしくない。それでも、私には君が必要なんだ。
兵器でなく、人だと。君といるときだけそう思える」

そんな深い気持ちで想っていてくれた。
はただ驚いて、目をまたたかせた。


「・・・・だから、二度と死を選ぶな。私のために」
この言葉だけ、苦しそうな声。

(ごめんね。あたし、本当に自分勝手だった・・・)



『好きなら好きだって言っちまえ。
・・・いろんなことを、難しく考えるから良くないんだよ』



ヒューズが、ロイへの恋心を認めないに言った言葉だ。
この言葉に陥落したのだ。シンプルで、ありのままの言葉。
は、それを思い出した。



「怪我が治って元気になったら、もう戦争は終わっているかもな」
沈んだ声を、無理に明るくしたように、軽い調子でロイが言う。

(そうかもしれない。でも、どうして今そんなこと言うの?)
口に出したくても、だるくて声にならない。

「そうしたら、君はどうする?故郷に帰るのか」
「あ、たし・・・・」
「これは、提案なんだが」

人の言葉を聞く気がない。まるで独り言。
話すのが億劫な今のには都合がいい。
それを分かっての行動に違いない。


「・・・・私がベットで、朝だよと、隣に寝ている君に告げる。
――――――――――――――そんな生活はどうだろう」


それはなんて幸せ。でも・・・

同じ国の人間を実験台にして殺した。
そんな人間が、一体どんな顔で愛を語れると言うのだろう。

それが課せられた罪なら、それはとてつもなく重いものに思えた。


だるさと痛みとで動けない身体にむち打って、
はかろうじて少しだけ首を動かす。
視線をロイに向けた時、彼の真摯な瞳に、すべてを悟った。

――――――それを、一緒に背負うと、この人は言っている。

逃げないで、一緒に、罪と戦うと。
(強い。やっぱり、私の好きな人は、スゴイ)

なんだか嬉しくて、熱いものが瞳から流れてきたのに、
身体が動かなくて拭うこともできない。

きっと今の自分は格好悪い。
そう思うを、ロイは優しい視線で見守る。
頬を流れる涙に触れるロイの指先を感じながら、は小さくいった。


「少佐さん・・・すき」
「ロイと呼んでくれたまえ。これからは、ずっと」


ぺしゃんこになった大地に小さな花が咲く。
は、うつらうつらする意識の中で、そんな幸せな夢を見た。











ここまで読んでくださってありがとうございます。
ヒロインの名前変更が手間ですみません。
書いた時期と、他の小説とヒロインの名前が違うので仕方なく・・・

もし良かったら、感想など頂けると嬉しいです。