彼女と別れて村に戻っても、まだ惨事は続いていた。
焼け落ちる中を走り回り、村の人を教会に集める。
すでに避難してきた村人もたくさんいた。

教会は石とレンガで造られていて、地下室もある。





「あの火はなんだね・・・服について、はらっても落ちないし消えない。
 あっというまに舞い散るように袖が燃え落ちたけど・・・やけどしちまった」

「空から降ってきて着地したと同時に、ばっと炎が噴き出すんだものな。
 おかげで一面あっという間に火の海だ。川に逃げようとしたら、ダメって止められたけど」

「川に逃げても潜りっぱなしでいられりゃいいが、息するときに顔に火がつくよ。
 一回火がついたら水の上でも燃えるらしいし。まったく、不思議な武器だよ」





噂話で、惨状を知る。
俺も実際に見た。家の屋根に到達したとたん、パッと燃え広がる花火のような火。
軽くて風に流されて、特定の場所を狙うのは困難に見えた。




「親父!無事だったんだ」
「ああ。隣の一家も、うちも、全員無事だ。軽いやけどですんだ。
 すぐ近くの畑で弾が落ちたが、土が柔らかかったせいか炎が広がらなかったんだ」


踏み固められた道の土の上では燃え広がっていた。
耕されたばかりの畑の土がクッション代わりになったのは、幸運としか言いようがない。




教会で再会した家族の姿にほっと胸をなでおろす。
あちこちで同じ光景が見られた。
誰がいないとか、不安な声もあるものの、ほとんど皆無事に済んでいる。

の恐れは、杞憂に終わったんだろうか。
実際に一人でも犠牲者がでれば、それは杞憂ではないけれど。



軽傷の者も、ほとんど怪我をしていないものもいる。
かといえば、身体の一部が黒く焼け焦げて変な臭気を放つ者も。

それでも、が言うような殺傷能力は今回に限り見当たらない。
悪魔の武器、そう聞いていたのに。




―――――――――――――なぜ?




「みんな地下室へ避難するんだ」

村の若い俺達の誘導に従って、村の人たちが地下室に降りていく。
煙は上に行くし、熱くても焼かれるより蒸されたほうが生き残る確率は高い。
でも、地下室もこれだけの人数はギリギリだろう。


誘導を手伝いながら、最後の一人を押し込む。
予想通り、最後尾で誘導していた俺が入る隙間は見当たらない。
それでも村の人は、傷ついた身体を寄せあって、なんとか場所を作ろうとしていた。



でも・・・・炎が収まるまでの長時間、この中で全員は無理だ。
俺一人がいないだけでも、火傷で負傷した人はどれだけ楽だろう。





「扉を閉めるよ。みんな、無事で」






村の人達が一様に、信じられないという顔をして見つめ返す。
それを目の端で見届けて、地下室への扉を閉める。


「おい!ジャン、どこに行くんだ?」


誰かの静止を振り切って、教会の塔へ登った。
この村で一番高い場所。どうせ死ぬなら、そこがいい。


一番見晴らしのいい、鐘が触れるくらいの場所。
ここで、に焼夷弾の話を聞いた。

は、こうなることを事前に知られたかったのかもしれない。
俺は、そのときどうして、それに気付いてあげられなかったんだろう。







見晴台から村を見る。


焼夷弾は、教会を避けるように下に落ちていく。
磁石の同じ極同士が反発しあうみたいに。
俺は、その光景を不思議な気持ちで見つめ続けた。
なぜ焼夷弾は教会を避けるんだろう。



神の御業?




――――――違う。風がそうさせているんだ。




教会の塔は村で一番高い。
炎で生まれた風が教会の壁にぶつかって、風向きが変わる。教会の外へ向く。
重さのない、軽い武器である焼夷弾は、風に流されるんだ。



下に落ちた焼夷弾が、何かにぶつかるたびに花火を散らす。
お祭りで見た花火より、よほど明るくて綺麗で、
不思議な魔力があるように見えた。こんなに禍々しいものなのに。




焼夷弾を撒き散らす飛行物体が、ようやく村から離れていく。
もうすぐすべて収まるだろう。



塔から下界を見下ろす。
村が、さほどの被害をこうむらなかったわけが分かった。


教会が無事だったのは風のおかげ。
村人が無事だったのは、この土地の広さのおかげ。


火は、密集した木造家屋でその威力を発揮する。
でもこの村は田舎で、一軒一軒が離れて存在する。



家が軒並み密集してるのは、軍のキャンプ地。


は、それを知っていて・・・敵にこの武器を選ばせたのだ。
綺麗な花火が続く一面の赤を見つめながら、涙が出た。



優しい、普通の人生を送れたはずの、

こんな悲しい選択をしなきゃいけなかった。
すべてはこの内乱のせいで。
戦争が、人の人生を狂わせるなら、自分にできることは何だろう?





守りたい。
これから産まれてくる無垢なるすべてを、この手で。



そのためなら自分の命をかけても構わない。
本気で、そう思った。
















東方司令部のオフィスの一角で、いまここにいる不思議を思う。
挫折しそうになったことは、実は何度かあった。
でもココに今辿り着いた軌跡は、確かにあのときから始まっている。





空を見上げると、あの時教会の塔から見上げた景色と変わらない色がそこにある。
俺は、今まで誰にも話したことのない過去の引き出しを、ようやく閉じようとしていた。






村人には奇跡的に犠牲者がでなかった。
焼夷弾は、燃え盛る炎が恐ろしい武器で、手足を吹き飛ばす武器じゃない。
多少なりの火傷はあっても、死んだ者や手足を失った者はいなかった。



だけど、俺の予想通り軍のキャンプ地の被害はすごかった。
消火活動をしていた人は逃げ遅れ火に巻き込まれ、川に逃げた人は皆死んだという。

その事実は、死のうとしていた彼女の気持ちの真実に、図らずも気付かせてくれた。



たとえ復讐でも、相手が軍人でも
・・・人を死なせるということは、ものすごく重い。



この罪を背負って生きていく。その苦しみの深さを思う。
それでも彼女は、俺の願いを叶えるために生きていくのだろう。

いつか、少しでも解放されればいい。それは時代の罪だと、そう思えるように。
それは内乱の後、保身と欲のために偉い人がこぞって言った言葉だけど、
あの人はきっと言わないから。







そよぐ風がカーテンを揺らした。


「ずいぶん昔の話だろ?・・・・回想すんのも長い長い」

そう言って笑う。
あのときの話をしても笑えるようになるまで、こんなに時間がかかった。



復讐ではなく、未来のために
あの人は、今、どこかで生きているだろうか。


再会を果たせないまま、今に至る。

生きてこの国を変える。
それまで、どうか・・・・元気で。


空を見上げる。
透き通る色に思いをはせる。
水色でも藍色でも、そこに想う人は一人だけ。





もしかしたら、今まで口説いた誰もに、の面影を重ねていなかったろうか?
それも仕方がない。似たような人と分かってたとしても、好きになってしまうんだから。










話し終えたハボックを、まじまじと見つめた。
ハボックは、そんな俺の視線もなんのその。

「ふうん。そんな事があったのか」

声をかけても、まだなんとなく呆けたような
夢から覚めたみたいな顔をしたハボックがそこにいる。

それともまだ夢うつつだろうか?



士官学校に入るために、それから猛勉強したのかと思うと、
よくも間に合ったものだと感心する。士官学校の倍率はけして低くはない。



「それじゃあ、お前恋愛できないよ。似た女ばかり選んでんじゃ」
「なんだよブレダ。ダメだしすんなよ・・・冷たいなぁ」

拗ねたようなハボックに、フンと鼻を鳴らして突き放す。



そんな犬みたいなしょぼくれ方しても無駄。
イイ女ばかり狙って、モノにできないくせに相手の気持ちを掴むなんて、男の敵だ。




「お前はさ、もっと無垢な子を守るような関係が、上手くいくんじゃないか?」
「たとえば?」

なんの根拠もなく出てきた言葉に、ハボックが真面目な顔して耳を傾ける。



「田舎にいないのかよ、幼馴染とか」
「いないよ。いたとしても恋愛対象にもならないようなちびくらいだな」
「ちびはいずれ女になるぞ」
「ははっ。想像もつかない」




じゃあ二度と会えないひとと再会する夢でも見るんだな。


そういうと、ハボックが苦笑する。
以前大佐にハボックが言っていた言葉を思い出した。






『東の田舎の出身っスから内乱は身近なものでしたよ。
自分でどうにかしたいと思って士官学校に入ったんスけど、
いや俺頭悪ィから苦労しました』





思ってたよりずっと、深い深い恋の話。
これはもう、愛と呼ぶべきものなんだろう。



こいつが本気で恋愛できるとしたら、次はきっと無垢な女に違いない。
本気で何からも守りたいと思えるような・・・


いや、むしろそんな人が現れて欲しいと、祈るような願いを
俺は柄にもなく、本気で思った。










ここまで読んでくださってありがとうございました!
こんな悲恋ですみません・・・かいてて楽しかったんだけど・・・
・・・最後の最後までとっても難産でした。話を重くしすぎたから自業自得。
こんな話ですが、感想などいただけると嬉しいです。


一応、ロイ夢「君に告げる」の姉妹編となります。
物語上はあんまり接点ないですが、良かったらそっちも読んでみてくださいませ。