第六話 夢のおわり
暖かい空気の中で、東方司令部の日常が始まる。
「桜、今日満開ですよ!お花見しましょう、大佐!!」
ハボックが満面の笑みで誘ってくる。
「嫌だ。お前たちは花見といいながら飲みたいだけだろう」
にべもなく断ったのに、ハボックはあきらめない。
「大佐のこと、つぶしてあげますから!」
「いや、いい。絶対ごめんだ!」
そんな光景に、リザが「ふたりとも仕事してください」と目を光らせた。
そんな中、電話が鳴る。
リザが電話を取って、ロイに渡す。
リザの「ヒューズ中佐です」という言葉に、ロイは軽く眉をひそめた。
また騒がしいのが・・・という表情。ロイの周りは、いつも騒々しいから今更なのに。
「よお、ロイ。聞いてくれ!うちのエリシアちゃんが」
「軍の電話を私用に使うのはいかがなものかな」
何度も繰り返された言葉を、もう一度繰り返すロイ。
どうせヒューズ中佐には効果ないと分かっているのに。
「ロイ、桜が咲いたな。セントラルは綺麗だぞ」
「おあいにく様、東部も綺麗だ。そんな報告なら、本当に切るぞ」
電話口のヒューズ中佐が軽い笑い声を上げた。
「つれないこと言うなよ。鋼の兄弟が、お前さんのこと心配していたからな。
うちの娘自慢のついでに、様子伺いの電話してやったんじゃないか」
「自慢のついでなのか。しかも、鋼のが今そっちにいるのか?」
「いや。そのうち会ったら報告してやるんだ」
なんだそれは、とロイが顔をしかめる。
周りの気遣いがくすぐったいのだ。その後、自嘲気味に苦笑する。
「ヒューズ。今朝、彼女が挨拶に来た。夢の中でね」
「そうか。元気そうだったか?」
くだらないと笑い飛ばしもせずに、普通どおりに話に乗ってくる。
そういう仲間がいてくれることは何よりの宝物。
「ああ。元気そうだった・・・なあ、ヒューズ」
「なんだ?」
ロイが呼吸をひとつして、静かに言った。
「のことを思い出したり話したりするとき、
・・・私はずっと、彼女の気配を感じていたような気がする」
電話口に、静寂が訪れる。
いつものように茶化すわけでも、否定するわけでも、反応に困ってるわけでもない。
ただありのまま受け入れた優しい気持ちがそこにある。
思い出を語っても、ロイは微笑んでいた。
目の先には窓の外の景色。満開の桜。
一緒に歩いた桜並木は早くも散り始めている。
ロイが舞う花びらを見て目を細める。
きっと、まだ辛い。でももう大丈夫。
「―――――――鎮魂とは、生きてる人間のためにもある言葉なんだな」
ロイがつぶやいた。
ほら、闇を抜けて、やっと辿り着いた。
私は安心して、微笑む。
電話口のヒューズ中佐が、何かを受け答えている。
その言葉が、だんだんと司令部の雑然とした音に埋もれていく。
だんだんロイの言葉も遠くなる。
仕事の話、世間の話、いろんな雑事に追われる一日が始まる。
それは幸せなことなんだね。頑張って。
ゆっくりとその場を離れる。
また私を思い出したら、必ず私はそばにいるから。
ふと、その声がロイに届いたような気がした。
桜の花が舞い散る静かな外の世界。
どこか遠くで人の笑い声がする。高い声で冗談を言いながら。
私はそれを聞くことなく、ゆっくりと目を閉じた。



最後まで読んでくださってありがとうございました。
この話は、自分の中で書く時期がまだ早かったように思います。
やはり妄想は楽しいのがいいですね。
そんなわけで、多分期間限定の掲載になります。
私の心の澱のような文章に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
