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まさか出てきた街へ、こんなに簡単に戻るとは思わなかった・・・。
私たち一行は、どんな関係に見えるだろう?
赤いコートの最年少国家錬金術師と鎧姿の弟と修道女。
この列車の中で、それを気にする人は今のところいないような気がするけれど。
結局、私の知識なんかエドの役にはたたなかった。
自分としての記憶が何もないから当たり前だけど。
異世界から来たかもしれない、という話を正直にした。
証拠はないけど、記憶にある言語や生活習慣や文化が違いすぎる、と。
エドに『例えば?』と問われて、言葉に詰まる。
『私の記憶にある場所は、こんなふうに錬成陣で何かを作ることはできないし。
軍事国家じゃないし・・・・戦争をしないと憲法で定めてるし・・・大総統もいない』
『平和な世界なの?』
『平和・・・そうね。たぶん・・・でも、問題がないわけじゃないの』
『問題?みんなが平和で幸せに暮らせるという場所ではないの?』
アルの質問に、私はまた言葉に詰まる。
『えっと・・・戦争をしてる国もあって・・・それで、国家間のからみとか・・・難しいの。
国によって貧富の差もあるし・・・私のいたとこも、過去は悲惨な時期もあったし』
『・・・なんでそれだけ記憶があって自分のことは思い出せないの?』
本当にね。アルの指摘は、そのとおりだと私も思う。
しゅんとする私に、エドがため息をついた。
『真理の扉が、何か言ってたんだろ?
あいつが等価交換で、記憶を持ってったんじゃないか?』
そういうことってあるのかしら?
でも、そうとしか考えられない。
『ただの妄想や精神疾患の類にしては、はしっかりしすぎてるんだよな。
あんまり、こういう非現実的なこと、俺は信じたくないんだけど・・・』
エドの言うことはもっともだと思う。
私の言葉を信じてくれて、ありがとう。
たくさん喋ると疲れる。
改めて、私は英語圏の人間じゃないと思い知る。
英語が得意でよかった。
それでも、ココに来てだいぶたつのに、まだ言葉に詰まる。
エドとアルの言葉を回想しながら、私は列車から見える景色を眺めた。
車窓から見える景色は、どこまでも見通せるくらい果てしない。
こんな何もない平野を窓から眺めたことなんか、前の世界では考えられない。
なんてのどか。気持ちがいいくらい澄んだ空。
ふと、車内に視線を移す。
座席で気持ちよさそうに寝ているエドをほほえましく思った。
アルと目が合って微笑むと、アルが照れたように首をかしげた。
「兄さんは、ほんとどこででも眠れるから」
少し口ごもるようなアルの物言いに、くすくす笑ってしまった。
でもすぐに、その笑いをひっこめる。
「も・・・度胸据わってるよね・・・・今、思ったんだけど」
アルの言葉に首をすくめる。
確かに、笑うのは不謹慎だったかも・・・
実はテロリストの列車ジャックに遭遇してる現在の状況。
呑気に車窓を眺めて景色に感心したり、エドの熟睡っぷりに微笑んでる場合じゃなかった。
列車を占領しているテロリストの一人が、こちらに歩み寄ってくる。
エドの睡眠はすでに周りの視線を一身に受けていたから、仕方ない。
でも、私が笑ったせいで、彼らはますます不機嫌になったかも。
「シスターの度胸にもあきれるが、この小僧にはあきれ果てるぜ。
・・・・・・この状況でよく寝てられんな、ガキ」
そう言って、男は座席の背もたれに腕を乗せてもたれかかった。
私は格好だけなら見習い修道女なわけだから、彼らからすればシスターなんだろう。
呼びかけに反応しないエドに、痺れをきらしたテロリストが叫んだ。
「ちっとは人質らしくしねえか、この・・・・チビ!!」
言った瞬間にエドが目覚めて、ぬっと起き上がる。
エドは男達をあっさり倒して、寝ぼけた顔で「こいつら誰?」なんていってる。
チビって言われるのがよほど嫌なんだ・・・気をつけよう。
エドのおかげで、この車両以外にいるテロリストが10人、居場所まで分かった。
乗客が不安にかられるなか、アルがため息と共につぶやく。
「誰かさんが大人しくしてれば穏便に済んだかもしれないのにねぇ」
「過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ弟よ!!」
エドが上から、アルが下から、テロリストへ向かっていく。
窓から外に出て風圧に飛ばされそうになりながら、エドが屋根に上る。
それを見送ったアルが、前の車両へ行こうとして、ふと気付いたように私を振り向く。
「は来ちゃだめだからね。ここにいて」
私は無言で頷いた。
武器を手にするテロリストに、私が有効な手を打てるわけもない。
何がおきても元に戻る私の身体を盾にすることはできるけど。
そのことを、この兄弟はなによりも嫌うから・・・私を大切にしてくれてるから。
「・・・・・・・・・・気をつけてね」
つぶやいた声に、アルが頷いて出て行った。
イーストシティに着く前に、簡単にテロリストを片付けてしまったエドとアル。
ホームに下りたとき、もうすでに東方司令部の軍人が集まっていた。
「や、鋼の」
手を上げて兄弟を迎えるロイの姿。
にこやかな彼は、私がずっと会いたかった人。
「大佐の管轄ならほっておきゃよかった!!」
エドが本当に悔しそうに言うから、なんだか可笑しい。
その隣で、アルが女性士官に向かって挨拶していた。
「まだ元に戻れてはいないんだね」
「文献とか調べてるけどなかなかね・・・」
東方司令部の人間とエドとアルは、近い存在なのかもしれない。
ロイが私をみつめて目を細めた。私のすぐ目の前に近寄ってくる。
それを見たエドが、今思い出したみたいに口を開く。
「・・・・聞きたかったんだけど、大佐とって、どういう関係な」
エドが全部言い終わる前に、ホームの一角で大きな悲鳴と物音がした。
仕込みナイフをぎらつかせて、テロリストの一人がロイを狙っている。
銃を取り出した女性士官を遮って、ロイが手袋を取り出した。
「これでいい」
必然的にテロリストとロイの間に立つ形になった私。
どうしようか一瞬迷って、でもここは下がるべきだろうと判断した。
でも私が動く前に、ロイが自分のコートにくるむように私の身体を抱きしめる。
「・・・・・・・!?」
「・・・こんなところにいては危ない」
指先を擦り合わせて一閃、テロリストの方向で大きな爆発が起こった。
風圧と飛散するコンクリの破片が、私を守るロイと周囲にふりかかる。
たとえ下がっても、この風圧と破片が私を傷つけたに違いない。
ロイが守ってくれなかったら、どこかしらすりむけたり、軽い傷を負っただろう。
もしかしたら・・・・
本当に、ありえないと思うけど。こんな小さな傷だけど・・・
―――――――傷があっという間に治る奇跡を、周囲に晒したかもしれない。
本当は、命に別状ない傷の治りは、そんなに不自然なほど早くは治らないけれど。
でも、ロイがそれを苦慮してかばってくれたのは明らかだった。
やっぱり、知ってるんだ・・・・・。
「大佐・・・尼さん相手に何格好つけてんだよっ!を離せよ。公衆の面前だぞ」
「久々の逢瀬なのだぞ。邪魔をするなど無粋もいいとこだ」
ますますぎゅっと私を抱きしめるロイに、困った私が抵抗せずに抱かれている。
ロイの台詞は、エドの邪推を利用した誤魔化しなんだと思うから。
抵抗しないのは、どうしていいのかわからなかったのと・・・居心地が良かったから。
でも心臓がやたらと跳ねる。体温が上昇したみたいに、身体が熱い。
悲鳴を上げながら憲兵に取り押さえられるテロリストの男に、ロイが静かな声で言った。
「手加減しておいた。まだ逆らうというなら次はケシ炭にするが?」
「ど畜生め・・・てめぇ何者だ!!」
テロリストが憲兵に抵抗しながら叫ぶ。
それを悠然と見下ろして、ロイが答えた。私を腕に抱いたまま。
「ロイ・マスタング。地位は大佐だ。そしてもうひとつ。
――――――――『焔の錬金術師』だ。覚えておきたまえ」



ココまでで第一章が終わりです。序章よりも短い・・・
大佐と遠距離恋愛で電話で気持ちを伝え合うシーンが書きたかった。
あと、シスターやメイドさんのコスプレ?をヒロインにさせたかったのと。
何よりも、テロリストからヒロインを守って、なおかつ自分の強さを誇示しちゃうロイ・マスタングを書きたかったんです。妄想驀進中ですねー。
