side roy・・・12



『私との関係を、秘密にするのか?私は別に構わないが・・・』
『そのほうが、いいと思うの』
『どうして?』



が少し困ったように小首を傾げて、微笑む。



『噂を聞いたわ。ジャクリーンさんとか、エリザベスさんとか・・・』
『仕事だよ』
『・・・・・・・・私のことも、他で聞かれたらそう答える?』
『答えない。君とのことは、真剣だと言うよ』



はますます困ったように微笑む。



『それはいや』
『どうして?』
『仕事仲間から刺されるのはゴメンだわ。ロイはもてるから私に身の危険がありそう』
『そんなことないと思うが・・・』
『自覚のないひとね・・・・・やっぱり秘密にするしかないわ』




くすくす笑って、その話題を終わらせた
それ以上も以下も話を発展させることもなく。



やたらに吹聴するような自意識過剰な女は好きじゃない。
とはいえ、の関係秘密の行動は、とても徹底していた。




私は、むしろそれを尊重して・・・そうして誰にも気付かれないように、
それこそ大事にを守っていたつもりでいた。


の希望通りに、と。そう信じて。








――――――――分かりにくいんだ、の感情表現は!







はにかむように側に居て、いつも陽だまりのような暖かさを感じる。
空気のような存在で、の顔をみれば安らいだ。




だけど本当は、いろんなことを我慢していた。




別れてから、逆に奔放になったようにすら思えた。
けど本当は、体調の悪さや胃の辛さを抑えて、明るく見せていただけ。
誰にも気付かれないよう、周りに迷惑かけないように。




の負けず嫌いと強がりだった。
何故今までずっと、気が付かなかったんだろう?






・・・・今、何を想ってる?










「大佐、ちょっとお待ち下さい」


中尉が部屋を出ようとする私を押し止める。
何をするつもりかと思ったら車椅子を持ってこられた。


病人らしいナリで行くのは嫌だとか言える立場ではない。
仕方なく車椅子に乗せられて、の病室へ向かった。




扉を開く。





「・・・・・・・やっと来たんですか。遅いですよ」



ハボック少尉が、私に向かって言い放つ。



「ハッキリ言って、のほうが大佐より重症ですからね。しばらく入院です」




そう言って立ち上がると、ハボック少尉はさっさと扉を抜けて出て行ってしまった。
遠慮したのか、あたりには誰もいない。






残されたに近づく。
涙の跡を認めて、ため息をつく。




「・・・・・・こら」
「・・・・・・・・・・・・」
「私以外の男性の前で泣くのはいやだといったはずだぞ」
「・・・・・・・・・ロイ?」




見上げてくる瞳が瞬く。
一生、私が守っていきたいと思った。



に微笑む。



「他の誰か、と言っても決まった人間だがね」
「・・・・・・・そう、かしら?」
「君が泣く姿を知ってるのは、私の他はハボック少尉だけだ。違うか?」
「ロイ・・・・・私、ハボック少尉とは確かにつきあったことがあるけど」
「幼い関係のままで終わったんだろう。見てれば分かる」



が絶句して私を見つめてる。




きっと、とハボックは幼い関係のまま別れた。
別れたことで傷ついたりもしたかもしれない。
だけど二人が育んだ時間は特別だった。きっと。




「君もハボックも、お互い自覚がない。・・・でも君を想う男は、まずそこに気付く」
「そこ、って・・・?」
「ハボックは別れた彼氏でありながら、君の兄のようだ。結びつきは、とても強い」
「そんな・・・」
「否定する?・・・私はそれを感じるたび、不機嫌になって君を困らせた」




思い当たることがあったみたいに、が目を瞬いた。
苦笑する。きっと、はたった今まで原因に心当たりなんかなかった。




「・・・・は誰かを思いやる心が強くて、自分を抑えることを知っている。
 ――――――――――――――だから泣かない。誰の前でも」




周りにいる誰もが、辛いなら自分を頼って欲しいと、心底願っていた。
自分を頼って、泣いてくれても・・・利用してくれても構わない、と。




それなのに、どんなに近づいても、どんなに求めても、どんなに願っても・・・・





「それが叶えられたのはハボックだけだった。
 ハボックは、どう差し引いてもにとって特別な存在なんだよ」






動かぬ証拠を突きつけられて、はどう切り返してくるだろう?
否定するのか、言い訳するのか。



涙が引いても潤んだままのの瞳。
相変わらずの、驚いた顔が瞬きした。





「ねえ・・・・・ひとつ、聞いてもいい?私、ずっと聞いてみたかったことがあるの」
「何?」
「・・・・・・・もしかして、それって・・・・・・やきもち、やいてくれたの?」
「悪いか」




ようやく、という感じで出てきた言葉は、疑問。
あっさり答えると、は一層驚いた顔をする。




「・・・・・びっくり、した」
「びっくりすることないだろう。私だって嫉妬くらいする」
「・・・・・・・・ロイはいつも自分に素直ね」
「では正直ついでにもうひとつ」



ゆっくり近づいて覆いかぶさり、キスをする。
涙で少ししょっぱい味がした。



「・・・・・・ん、ロイ・・・・・・私・・・」
「将軍の娘とは縁がなかったようだ」



唇を離して私の名前を呼ぶに、間髪いれずに言う。



「え・・・・・?」
「断られたよ。予想通りだけどね」
「そんな・・・・そんなはずないわ。お嬢様は、明らかに貴方を・・・」
「でも、そうなんだ」




信じられないという驚きの顔で、が私を見つめる。
それを見て、私はにっこりとに笑いかける。




「だから、私の妻の座はずっと空席だよ。君が座ってくれない限り」





恋愛には鈍いくせに、どうして将軍の娘の気持ちに気付いたんだろう?
将軍の娘は無表情で、感情はわかりにくいこと極まりなかったのに。




「ロイ・・・仕向けたわね」
「何とでも」



ほら。
こういうところも、敏感。



微笑むと、が静かな視線を向けてくる。
それはまるで、夢から醒めたばかりのような瞳。




「私・・・一人でずっと、立ち止まっていたような気がする・・・」
「うん・・・」
「諦めないようにって、貴方が何度も何度も導いてくれたのに・・・」




歩き出そうとするたびに、踏み外しそうで怖かったんだろう。
そんなの気持ちが、今更ながら心に届いて、理解できる。





手のひらを合わせて、細い指に絡ませる。
それを唇に持っていき、語られる誓いの言葉。




。プロポーズをするなら私は君に」
「・・・・私が乗り越えるまでいつも、待っててくれるのね。ロイは・・・」




の言葉の意味が分からなくて、不思議な顔でみつめる。
そんな私に、が微笑む。





「ありがとう。ずっと・・・、側にいて支えてくれて・・・。ごめんなさい」





まるで長い長い迷路から抜け出してきたみたいだった。
回り道をして、ようやく辿り着いた場所。みつけた答え。






「いいよ。私はがいてくれれば、それだけでいい」







の嬉しそうな笑顔。
輝く表情を見たのは本当に久々で、嬉しかった。





「・・・・ねえ。ロイは嫉妬する必要なんかないのよ」
「どうして?」
「私を泣かせることができるのは、貴方だけだもの。他の誰でもなく」





ああ、なんだか過去にも同じことを言われたような気がする。







「・・・・・ロイ、どうかしたの?」
「いや・・・・なんでもないよ」




いつ、誰に言われたのか思い出そうとしたけど、やめた。
がきょとんとした顔で見上げてくるから、可愛くて笑ってしまった。



どうして笑うの?と拗ねる君。






幸せが何かと問われれば、大事なものを大事にすることだと答えるだろう。
それが今目の前にある君だと言ったら、君はなんて答える?







病室の窓から外をのぞく。




この晴れた空はきっと、深い暗闇から抜け出した夜明けが作ったもの。
はるか先に見える幾憶の輝きを包んだ闇の中から・・・



こんなに表情が違うのに。
この青い空は、あの日見た闇と同じ空。






光射す雲間が目映い。

虹がかかっていればいいのに、とぼんやり思った。







維月にとっては初めての長編ロイ夢、ついに完結しました。

まさかここまで長引くとは、書き始めた時は思いもしなかったです。
なんとか無事に終わり、ほっとしてます。長かった・・・。
当たり前みたいに長い話を書ける人を、本気で尊敬。すごいことですよ、ほんとに。

最後までお付き合い下さり、どうもありがとうございました。