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静かな玄関。
後をつけてきたけど、なんとなく立ち入ることができないまま。

長身のハボック少尉が残されて、が立ち去る足音が小さくなっていく。
残されたハボック少尉が、の後姿を眺めていた。


の姿が完全に見えなくなるのを待って、ハボックが独り言のようにつぶやいた。


「・・・・・大佐、いるんでしょう?」
「あの台詞はまるで、残れと言っているようだったからね。戻らなかった」


そう言って物陰から姿を現す。
まさか立ち聞きしてたのを知られたとは思わなかった。

薄暗い玄関、扉の灯りとりの小窓から差し込む光だけの場所、ハボックと向かい合う。



が戻ろうとしたときにハボックが呼び止めた言葉。
『大佐のとこですか?・・・・今執務室に行ってもいないと思いますよ』

あの発言の意味は、私がここにいる、ということ。



「その後に、用事があるって言ったな?用事があるのはお前のほうだろう?」
「仕事があるんで、長話は出来ないですけどね」



それもお互い様だ。でも、後々のために禍根は残したくない。



「・・・・・・・・知ってたんだろう?」
「知ってましたよ」
「いつから?」
「いつからって・・・・・大尉は素直で分かりやすいですから。
 けっこう最初から知ってたんじゃないかと思いますけど」



さらりと答える。そんなに前から、ハボックはが好きだったのか・・・

言わなきゃ分からないことに気付く速さというものは、相手をどれだけ見ているか、
もしくは関心があるかにかかってる。どんなに分かりやすい相手でも、それは同じだ。



「譲る気はないよ」
「知ってますよ」


面白くもなさそうに、ハボックが返す。


「チケット、私は頼んだ覚えはないが・・・代金払っておこうか?」
「いいですよ。大佐からってことにしといてください」
「いらないのか?」
「いります。ボーナスに上乗せしといてください」



思わず吹き出して笑ってしまった。
しっかりしてるというか、ちゃっかりしてるというか・・・・


「ボーナスまでまだ大分あるが?」
「いいです。ボーナス査定がよければ出世も早いでしょ?」
「出世したいのか」


出世欲に長けた人間にしては、珍しいタイプに思えて、聞き返した。
ハボックは、上官に媚びたり立ち回りを計算したりしない。


「・・・・したいですよ。好きな女より階級が下って、やっぱり嫌ですからね」


・・・想い人の恋人である上官に向かってなんと正直な。


「弟分として可愛がられて喜んでいたんじゃないのか?」
「まあ、それはしょうがないでしょう・・・・大佐しか見えてないですから、大尉は」


悔しそうに顔を歪ませる。
そんな顔は初めて見た。いつも負の感情は無表情で隠すのに。


「大佐の話になると、いきなり顔が輝くんですよ。知ってますか?
 幸せなんだなって思って・・・だから今回本当は、先に進みたくて玉砕するつもりでした」


目を見開いた。
驚いた。失恋するために、あんな芝居を打ったのか?


「どうして・・・・」
「大尉から、はっきり大佐とつきあってることを聞けば、俺も諦めつくかと思って」
「聞いたじゃないか」
「でも、大尉は、俺のことも好きなんですよ」


ふふん、と笑うハボックを、穴が開くほど凝視してしまった。
開いた口が塞がらない。


「今回は撤退しますが、諦めませんから」
「諦めてくれ。ハボック少尉のことは、は弟としか見てないよ」
「知ってます。弟として、大事にしてくれてるんですよね?」
「いや、だからだね・・・」
「大佐があせるって珍しいじゃないですか?
俺をライバルとして認めてくれてるってことですか?嬉しいですね」



にやにやと切り返すハボックに頭をかかえる。


「・・・煩わしい。もういい、好きにすればいい」
「いいんですか?」
「いい。でも、の気持ちが向けられるとは思うなよ」


正面からハボックを見つめる。


「この私がいる限り、そんな未来はない」


正面には、ゆったりと微笑む部下の顔。
諦めたような、寂しそうな・・・そんな顔は、毒気を抜かれる。
さっきまでの表情は、どこにも見当たらない。



「そういってくれてよかったです・・・大尉のこと、頼みましたから」






あ・・・・!





気付いたときには、ハボック少尉は扉の向こうに消えていた。





ハボックは、だけでなく私の気持ちまで確認したかったのか。
そうまでしないと、想いを整理できなかったんだろうか?


閉じられた扉の向こうに消えた背中を思って、しばらくそこに立ち尽くしていた。








「大佐・・・・お仕事、終わりました?」
執務室を覗き込むように入ってくる、愛しい人。

「ああ。今日は中尉にも協力を頼んだからね。仕事が終わらなくても時間で上がる」
「それって・・・・手伝います。できるだけ仕上げておきましょう」



真面目な彼女の台詞に苦笑する。
書類を手にしたは、まず急ぎのものだけより分けて、てきぱきと机に並べる。


「これとこれはサインだけですから、お願いします。あと、この連絡事項の確認を」
「分かった、分かったから・・・」



堅物すぎる彼女を腕に絡め取ると、抱きしめる前に私の顔に書類を押し付けてきた。
ぱさ、と顔で音がした。キスも抱擁も拒むに、少し顔をしかめる。


「早くして!演奏会、楽しみにしてるんだから」
「まったく・・・・帰れると言ったのに、始めたのはそっちだろう?」
「だって、ロイにまかせてたらリザがかわいそう。出来ることはしてあげて?」
「やれやれ・・・下士官にこき使われてるのは私も一緒なんだがね」
「知ってるわ。それが上司としての包容力でしょ?いいとこ見せてちょうだい」


私の扱いも上手いが、この調子で将軍の副官を務めてるんだろうか?
頼もしいというか・・・。でも、賢い彼女を副官に選んだ将軍の見る目も確かなものだと思う。


「分かった。では仕方ない。ご要望にそうとしようか」



机に向かうと、にっこり笑って満足そうな。その笑顔に微笑み返して、仕事に向かう。
がより分けて差し出した仕事はどれも整理されていて、ものの何分もかからなかった。


「では行こうか。演奏会・・・開演は間に合うかな?」
「大丈夫。・・・・ありがとう、ハボック少尉に頼んでくれたんですって?」



の言葉に返す言葉が見つからず、あいまいに笑って、退室を促した。
更衣室に寄って、現地で待ち合わせしようと決めた。

ハボックの選んだ特別席は、個室みたく仕切られている。
中に入れば密室デートと変わらない。


今更かもしれないが、彼女の言葉を借りれば『職場恋愛は内緒がルール』らしいから。
もうしばらくは彼女の酔狂にも付き合っておこうと思う。



手の中の箱に触れて、満ちたりた気持ちになる。
今日これを渡して、彼女のこの先の未来を手に入れよう。




特別室は、演奏会でもワインや音のしない食事が振舞われて、ふかふかの椅子も心地よい。
壁の両側にはアレンジメントされた花まで飾られて、見下ろすとオケが近い。
欄干から身体を伸ばせば外に身を乗り出すことも出来るが、簡単に外からは見えない造り。


手すりにもたれて、が来るのを待った。
開演時間を気にしていたから、きっともうすぐ来るだろう・・・



「おまたせ。ロイ、もう飲んでるの?」
「・・・・ああ、つがれたから少し口をつけた。なめたくらいだ。飲んだうちに入らない」

飲みかけのグラスを見た彼女の言葉に抗議して、振り返る。
はっと息を呑むくらい、今日の彼女は綺麗だった。

いつも私といるときは、格好に気を使ってるんだろうと思っていたが今日は、正装。
薄地のドレスにハイヒール、髪型もなんとなくまとめてる。
いつもより少しだけ念入りの化粧と桜色の唇。清楚なのに魅惑的。


「その姿は・・・惚れ直すね」
「ありがとう。特別席なんて初めてだから、ふさわしい服装じゃなくちゃって思って。
 ロイだって、ちゃんとしたジャケット着て正装に近い格好じゃない?素敵よ」


それは特別席の為ではなく、今日行く予定だったディナーの店に合わせた服装だから。


「そのドレスは初めて見るね」
「ふふ。リザと買い物行ったときに見つけたの。薄い桜色・・・春めいていて、いいでしょ?」


嬉しそうに微笑む彼女に、今更ながらときめく。
これはこの先もきっと変わらないだろう。


胸元のネックレスは、私が贈った真珠。
私の手首には、彼女から贈られた腕時計。



「それはそうと、社内恋愛はいつまで秘密にするつもりだ?」
「ずっとよ。もちろん」
「いい加減、周囲は気付いてると思うんだがね」
「そうね。私もそう思うわ。みんな、優しい嘘で守ってくれてる」



優しい嘘?


「優しい嘘・・・・知らない振りをしていることか?」
「・・・・・・いろいろと、よ」


魅惑の微笑み。含むようなその笑顔を見ると、問いたださずにはいられない。
それが彼女にとっては、何の駆け引きのないものだとしても。


「・・・・たとえば?」
「だから、いろいろ」



きょとんとした私の顔を見て、相変わらず微笑みを変えない彼女。


「社内恋愛を秘密にする理由と関係あるのか?」
「それは、もちろん」
「秘密の理由はなんだ?」
「オトコノヒトは、そういうの考えたりしないのかしら・・・・?」


小首を傾げては不思議そうに言う。



「だって、たとえばの話よ?お互いが幸せなうちはいいけど・・・・・。
この先、何があるか分からないでしょ?」
「この先たとえば何があると?」
「そうね・・・たとえばだけど。ロイが他の人を好きになって、私と別れたくなったり。
 どこかの将軍から、出世コース確実のお見合いの話を持ってこられたり。それと・・・」


が少し言いよどむ。


「・・・・もし、ロイに何かあったとき、お葬式で隠し子が発覚したり」
「こらこら・・・私を勝手に殺すんじゃない。隠し子を作るんじゃない」
「私は、たとえロイが死んでしまっても、家族じゃないから知らせてもらえないもの。
だから、ちゃんと生きていてね。しっかりしててね。・・・・・・隠し子は、冗談」




が、冗談みたいなことを真面目な顔で言う。


「・・・・・極端かもしれないけど、このお付き合いがどう転んでも大丈夫なように、
できるだけ周りに迷惑かけないようにするのが大人のルールかと思って」
「そういうものか・・・?」


疑問符を投げかける私に、が言葉を続ける。


「下手に知ってたら同情も気遣いも面倒よ?
知らない振りをするだけでも本当は嫌なものなんだから」



恋愛という浮かれてのぼせるような関係にありながら、なんて冷静に物を考えるんだろう。


「今の言葉から察するに、は私が他の人を好きになったり、出世の誘惑があれば・・・・・
 殊勝にも、自ら身を引く考えってことか?それと、私の死後の身の振り方まで考えて?」
「そうは言ってないわ。たとえばよ・・・」


困ったように口ごもる。その様子に少し安堵する。
私との関係を、そんなふうに簡単に考えてもらいたくない。


「たとえば、をいくら考えついたんだ?まったく、ろくなことを考えない」
「お葬式はごめんなさい、言い過ぎたわ・・・でも大事な事よ?ろくでもないことじゃない」


このまま話がすすめば喧嘩になりそうだ。
と喧嘩になったことはないが、初めての喧嘩が今日なら御免こうむりたい。



「分かった。・・・それは、後で話そう」



セントラルフィルの楽団員が舞台に並び始めたのを見て、話を打ち切る。
全員が揃った後、厳かにでてくる指揮者に拍手が沸いた。

タクトを振り上げて、同時に鳴り出すオケの音。
荘厳な響き。寄せてくる音の波が、あたりを包み込むように迫ってくる。
なんて心地いい・・・



前半が終わったところで、が口を開いた。


「素敵ね・・・こんな上等の席で、こんないい演奏を聴けるなんて。少尉に感謝しなきゃ」
「そうだね・・・たまにはこういうのもいいな」

の口からハボックの名前が出て、少し違和感を感じた。
チケットを代行して買ったことになっているから、そのことだろうとは思ったが・・・


「明日、少尉に会ったら何て言う?」
「え・・・・?普通に、ありがとうって言うつもりよ。どうして?」
「演奏会の感動は伝えないのか?」
「それは、しないわ。少尉がかわいそう。大事な弟分なんだもの」
「そうか・・・・」



どうして感動を伝えることが『かわいそう』なのか疑問に思った。
でもで、私に疑問を持ったようで


「ね・・・今日は、ハボック少尉の話をしても、いつもみたいに言わないのね」
「何を?」
「・・・・・・なんでもないわ。いいの、気にしないで」
「いつもみたいに、『ハボックは君が好きだ』と言わないのが不思議か?」
「ロイったら・・・・・・もういいの」
「・・・君も、優しい嘘をつくと決めたんだね」



が、顔を曇らせた。
何がきっかけか分からないが、彼女もハボックの気持ちに気付いたのだ。

この演奏会のチケットが私の仕業でないと勘付いたのだろうか。
それとも、ハボックの演技に不自然さを感じたのか。


今の会話で、私とハボックの間にあったことも勘付いてしまったかもしれない。
ユイは恋愛には鈍いが、そのほかは意外としっかり物を見ている。






「・・・・・私のは、優しい嘘って言わないんじゃないかしら。ずるいって思うもの」
「優しい嘘をつくのは、ハボック少尉か・・・」
「少尉が弟みたいにかわいいの。キライじゃない。でも・・・」


その気持ちに応えられないことを、曇る表情が告げていた。


「誰かを傷つけることが苦手なのは、君のいいところだよ」
「そう思う?私は・・・自分が周りの人にたくさん甘えてると思うわ」



そんな悩むような言葉に、少し驚いてをみつめた。


「だって・・・気付いちゃったもの」
「・・・・ハボックの気持ちにか?さんざん私が言ったろう」
「それ。気付かなかったのは私だけで、司令部のみんなも、きっと知ってたのね・・・」


物憂げにがうつむく。
言わんとすることが見えてきた。



「だから・・・『いろいろ』?・・・優しい嘘、か」


私との交際を知って、なおかつハボックの恋心も知っていた司令部の面々。
知らずに気遣われていた数々の出来事に、今更気付いたことを恥じている。
―――――――――――――――そんなが、いじらしいと思った。




「ひとつ聞いていいか?」
「・・・・・何を聞きたいの?」
「私が他に好きな人が出来たらどうする?別れてくれるか?」
「どうしてそんなことを・・・」


曇らせた表情を、泣きそうにゆがめてが言う。


「たとえ話だよ。・・・それとも、少尉に慰めてもらって、彼と付き合うか?」
「・・・ロイ、それはひどいわ」


いじめてしまったろうか・・・?様子を伺いながら、返事を待つ。


「私・・・・ロイが好きなのよ。少尉じゃなくて・・・」
「たとえ話は、どういう結末になる?」


他に好きな人が出来るなんて、この先ありえないような気がするが、あえて聞く。


「・・・・たとえ話なんて言葉だけ。本当はロイがいなくなるなんて怖くて想像できない」
「あんなに楽しいたとえ話を、いくつも披露してくれたじゃないか?」
「たとえ話は・・・いつも結論がでないまま終わるの。不安な気持ちの現われだもの」
「・・・・不安、なのか?」



が、泣きそうに歪んだ顔で、無理に微笑む。



「・・・・・・・きゃ・・ロイ」


椅子がガタンと音をたてた。を腕の中に引き寄せる。
すとん、とあっけなく腕に収まるから、ほのかに花の香りがした。
すぐ近くにあるの整った顔。桜色の唇。膝の上に乗る華奢な身体。

ざわめく会場。まだ2部は始まらないが、もうそろそろ団員が舞台に上がり始めてる。



膝に座らせたまま、大きなの瞳をじっと眺めた。
長いまつげが、表情に合わせて揺れる。細い身体。白い肌に薄い色の生地は良く映える。


「・・・どうしたら、不安じゃなくなる?」
「どうしたらって・・・・幸せだから不安になるのよ。贅沢なだけ。ロイのせいじゃないわ」
「それは困ったな」
「困らないで。私は今のままで十分幸せよ」
「それも困る」


不思議そうに小首を傾げるに、ふっと微笑む。
ついばむように首筋にキスをすると、ゆっくり膝からを降ろした。


「今のままでは、私が嫌なんだ」


そう言うと、私は椅子から立ち上がって、の手に小さな箱を握らせる。
信じられないものをみるように、が手にした箱を見つめていた。


「ロイ・・・・これ」
「あけてごらん」


箱を開けば、輝くダイヤモンド。最愛の人のための婚約指輪。



「これ・・・・ロイ・・・・・これって・・」
「まるで壊れたレコードだな」


はは、と軽い声をあげて笑う。信じられないものをみるみたいに、目を丸くする
会場から拍手の音。セントラルフィルの演奏会、後半が始まる。



「返事は、曲が終わった後でいいから」



彼女を席に座らせて、自分も椅子に座る。
眼下には盛大な音と明るい舞台。一人ひとりが鳴らす音が空気に乗って音を奏でる。



ふとを見ると、泣いている。
驚いて演奏に没頭していた頭がに切り替わる。
指輪を渡せば、喜んで承諾してくれると思っていたのは甘かったんだろうか?


指で涙に触れるとが私をみつめる。


「なぜ・・・・?どうして泣いている」


演奏が終わって、拍手の音。
なかなか鳴り止まないそれに、声が消されてしまうと思った。


「・・・・私との結婚は嫌か?」


が首を振る。


「ハボック少尉のことを気にしてる?」
「私・・・・びっくりして。いろんなこと、急におこるから」
「・・・・・そう、か」
「私、ロイと幸せになってもいいの?」


質問の意味が分からなくてを見つめる。


「大事な人、もしかしたらたくさん、傷つけても・・・自分が幸せになることを選んでいい?」
を大事にしたいと思う人は、が自分の幸せを大事にすることを願うよ」


ハボックの、寂しそうな諦めたような表情を思い出す。
今日私が婚約を申し込むことも勘付いてたんだろうか?彼なら、それも有りうる。


部下の想い人を奪ってまでも、望んだ恋人。
一生大切にしようと決意するには、十分すぎる理由だった。



指輪を薬指にはめると、幸せそうに輝くの瞳。
うっすらと微笑む唇に、そっと口付けて、手を握る。

薬指に輝く永遠の約束。
これからは何か起こっても、ずっと一緒だから・・・。



ハボックとの約束を守るために。の願いを叶えるために。



『私は、たとえロイが死んでしまっても、家族じゃないから知らせてもらえないもの。
 だから、ちゃんと生きていてね。しっかりしててね・・・・・』



たとえ死んでも傷ついても、私はきっと君の元に帰る。
それが結婚するということだから。







会場の嵐のような拍手。
きっとアンコールに応えて舞台に指揮者が立ったんだろう。


また、音が奏で始める。
そよぐように流れてきたメロディー。

今度こそ、感動のフィナーレ。








『たとえロイが死んでしまっても、・・・・
 だから、ちゃんと生きていてね。しっかりしててね・・・・』




まるで閃く様に彼女の願いに気が付いた。
誰よりも私を想う、誰よりも最愛の人の、本当の願い。

あの時、初雪に彼女がこめた願いは、きっとここにあった。
真面目な軍人である彼女は、いつも心のどこかで覚悟をしていたはずだ。
それを言葉にしなかったことこそが、彼女の私への本当の、優しい嘘。



目の前の想い人に、そっと微笑む。



何よりもそれを望んでくれるのが君ならば。





彼女に手を伸ばす。すぐ届くところに在る身体。
守るように抱きしめる。願うより強く決意する。








大丈夫・・・・絶対に。簡単に、死んだりなんかしない。


自分はきっと、生きていく。
誰かのために在ることができる幸せを、教えてくれた君と。







最後までお付き合いくださりありがとうございます!
「優しい嘘」で大尉シリーズは一応終了です。
この話だけ読んでよくわからなかった方は「雪に願う」と「甘い時間」も良かったら読んでみてください。
少しだけ関連してるので謎がとけるかも・・・