女一人で、場末のバーでひとりお酒を飲んでいるという光景は、なんだか寂しい。
友達でも彼氏でも、上司でも部下でも、誰かが側にいれば別だけど・・・
「マスター。ギムレット」
ここでひとりで酔っ払って醜態を晒しても、私を知っている人は東部には誰もいない。
そう思えば気持ちも楽になる。
・・・でも、なんでこういう時は酔えないんだろう・・・
くいっとギムレットを飲み干して、グラスを音を立てて置いた。
吐き出すようにため息をつく。
「いい飲みっぷりだな・・・・・見ない顔だが、ここへは初めて?」
振り返ると黒髪に優しげなマスクのハンサムが立っている。
「隣に座っても?」
「・・・・いいけど、今日の私、ちょっと扱いが面倒くさいわよ」
男は爽やかに笑って、隣に座った。
「何を飲む?」
「・・・・・ギムレット」
本当は、そんな強いカクテルを飲んだら気持ちが悪くなることが多い。
いつもならジンライムとかスプモーニとか。
柑橘系のライトでさっぱりしたカクテルが好きだけど、今は・・・
「・・・わりと強いカクテルが好みなんだね」
「すごく酔いたい気分なの」
「何か嫌なことでも?」
「大正解。大体、この東部にいることから私・・・」
いいかけて、口をつぐむ。
マスターが三角形のグラスを私の目の前に置く。
「・・・私、今日この東部に来たの。仕事で。・・・彼氏と別れて」
「・・・・・・・別れたくなかった?」
「・・・分からない。本当はもう、そうなる前からだめになってたのかもしれないし・・・」
何も言わないで私の言葉を待つ見知らぬ男。
面倒って言ったでしょ?
こんな失恋女の愚痴、貧乏くじを引いたって思うよね。
「彼、工場で働いてたんだけど、そこが内乱で経営難に陥って、結局倒産して・・・。
失業しても、新しい仕事もなかなかなくて・・・真面目な人だけど、心も弱かったのね。
私、支えようとしたけど支えきれなくて・・・疲れちゃったの・・・・」
私が働くから。養えるか分からないけど結婚しようかって。
女から言うのがどれだけ勇気いったか。
だけど、彼は私の言い方では・・・プライドが許さなかったんだろう。
一緒にいたい。結婚したい。
いうことはいうくせに、じゃあしようかっていうと、
『もっと君にふさわしい男になってからじゃなきゃ』
そんな理想的な台詞を吐くなら、それに見合う頑張りが必要なのよ?
人をうらやんでみたり、さげすんでみたり、そんな言葉ばかり出てくる彼。
思えば彼も精神的に不安定だったのかもしれない。
でも・・・・・私も余裕があるわけじゃなかったから、それがわかっても許せなかった。
なんで、弱気なことばかり言うの?
最初は励ましてたけど、自分を信じられない男を信じ続ける強い女になれなかった。
愚痴ばかり聞きたくない、しっかりしてよって、ついには叱ってしまった。
そんな話ばかりじゃ不安になる。
そう言って怒っても・・・彼はやめてくれなかった。
不安で、不安で・・・不安で仕方なかった。
このままこのヒトと一緒に人生歩くことが、不安で。
別れようと言ったら、泣かれてしまった。
「ぼくには君しかいない。君みたいな子いないよ、優しくて、強くて・・・
もっと頑張るから。もう愚痴も言わないから、側にいてよ」
自分勝手に空想の中で生きていく身勝手な男。
空想の中で作り上げた世界を現実にする力もなく、ただ甘えてきた少年。
もともとの育ちがいいから余計に、自分で生きていく力のなさと、理想のギャップを受け入れられない。
現実の中で必死にもがいて生きていこうとする私は、きりきりするばかりで・・・
ズルイ自分に向き合って本当の気持ちを言えと言われたら、きっと私は、
彼の同じ言い訳に何度も引き戻されて裏切られ続けて・・・・
離れたいと思ってた。
・・・離れたいと、望んでいたのは私のほう。
でも、一緒にいて楽しいこともあったの。
だから・・・・この東部に来ても、部屋を見渡すと君の跡がいくらでも残ってるのが辛い。
君の思い出の残る家具の中で暮らさなきゃいけないのは、拷問だよ。
買い換えるお金なんか、ぜんぜんないもの。
椅子に座って、ミルクティーを飲む彼の姿。
女の子みたいだと、からかったっけ・・・
「・・・・重いでしょ。運が悪かったわね。付き合ってくれなくてもいいわよ」
そういって黒髪の男を見上げる。
先ほどと変わらない柔らかな微笑みを絶やすことなく私を見つめる眼差しは、優しい。
意外・・・どうして?
面倒くさい、の意味が分かったのかしら。
失恋女の相手・・・この男はどうでるかしら?
失恋の慰めを買って出てホテルにでも誘う?
それとも酔わせて私を好きにできるとでも思う?
そんな可愛げのある女なら、面倒くさいって言わないのよ。
黒髪の男が、私の気を紛らわせるように話を変えてきた。
「・・・話をかえようか。時に、君の仕事は?」
「新聞記者。東方司令部詰めになることが決まってる軍政専門の記者よ」
そこで初めて、大きく目を見開いてハンサム男が驚いた。
その驚きっぷりがハンサムなこの男に似合わなくて、私はそっちが意外。
「・・・・もしかして、同業者?」
「いや。女性なのに、新聞記者とはね」
「別に珍しくもないでしょう?確かに男のほうが向いてるとは思うけど」
「どうして?男性と肩を並べる仕事をしている女性は、そういう発言を嫌うと思っていたけど」
「だって・・・どう頑張っても軍は男社会だもの。仕事で関わってくるのは皆、男ばかりなのよ?
人間関係だって仕事に大きな影響与えるのに、男女の友情より男の友情のほうが育みやすいでしょ」
少し納得したような顔で、ハンサム黒髪が笑う。
「口説かれると仕事に影響が?」
「それもあるけど・・・紳士的な人は、好意をもってくれたとしても、下品なマネはしないものよ。
あいにく私は下品な男も適当にあしらえるし、仕事で女を下品に利用したことはないわね」
「じゃあ、どうして男のほうが有利だと?」
それはもちろん。
「いっしょにオンナノコのいるお店にも、気軽にお酒を飲みにも行けるでしょ?
男の友情が芽生えて気も許せて・・・情報ももらえる可能性が高くなる」
はじかれたように笑った男に驚いて、
今度は私が眼をまるくして彼をみつめた。
男は、結局雑談だけしてお酒をごちそうしてくれて
私になにもせずに、店の前で別れた。
私はこの出会いを、記念すべき友情の初日と勝手に思っていたんだけど・・・
後日。先輩記者に連れられて、初めて東方司令部に行った私は、あの時の彼に再会した。
「・・・・・・・マスタング大佐、ですか?」
「はじめまして。美人な担当記者で、当方も嬉しい」
いけしゃあしゃあと澄ましている彼に、呆然とする私。
くすくす笑いながら、マスタング大佐と名乗るハンサム男が私に言った。
「また飲みに行きましょう。友人として、仲良くなっていただけるのでしょう?」
寂しくて仕方のなかった夜。貴方に出会えて、初めて東部でぐっすり眠れた。
不思議だね・・・ここでなら、新しい生活が楽しくできるかもしれない。
ありがとう。
言葉にせずに、私はにっこりわらって頷いた。
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なんというか、出会いから書いてるドリームって私の場合あまりないので・・・
今回のヒロインは連載も少し考えたけど、絡み難くて挫折。
仕事を頑張るヒロインて、男女も仕事の関係だけで終わってしまって、甘くなりにくいです。
現実でもそうだよね?器用な人は違うんだろうけどー。