青の団を全員捕縛して、ひと段落する。
拘束された彼らを司令部の一角にある牢へ押し込む。
が、奴らは皆、血気盛んな野郎ばかり。


うるさくて仕方ない。


これから取り調べて、残党を処理して、セントラルにも報告書を・・・・
そのほかにも市街地の後処理も、人質や駅職員への聴取も、仕事は山だ。



鉄格子に八つ当たりながらだみ声を上げる連中を一瞥して、ふう、とため息をつく。
そんなところにおよそ不釣合いな、可愛い女性の来訪。
愛らしい顔立ちと、きめ細かい色白の肌。
長いまつげと薄紅色の唇は、化粧をしてなくても映える。
美人というよりは可愛いに含まれる部類。
不釣合いなのは、軍服を着ていることと、その階級章、そして



「ロイ、ずいぶん覇気のない顔をしてるじゃないか」
「・・・・・・・・動物園の檻のほうがずっとマシだよ、こんな状況」
「ははは。頑張ってさばくんだな」




この鈴の鳴るような涼やかな声に不釣合いな、男のような口調。




牢屋の連中が彼女を見て、ヒューっと口笛を吹き好奇の目を向ける。



「なんだ姉ちゃん、ずいぶん可愛いじゃねぇか」
「こっちこいよ、かわいがってやるぜ」


言葉にするのもはしたないような、卑猥な言葉や仕草が続く。
彼女にとっては慣れっこかも知れないが、さてどうするのかと彼女を見た。


ぜんぜんこたえてない無表情な彼女の様子に、またため息がでる。
仕方がないから、牢屋の連中に釘をさすことにした。





「・・・・君達、こう見えて彼女は国家錬金術師で大佐。修羅場も経験してる。
 甘く見ると、痛い目にあうぞ。あまりからかうものではない」





どっと歓声があがり、続いて笑い声。





「へえ、このか弱そうな姉ちゃんがねー。国軍もたいしたことねえな!」
「どうやって大佐まで上り詰めたんだ?色仕掛けで大総統にでも掛け合ったのか?」
「いいねぇ、俺にもヤらせろ!」





騒々しい連中には表情も変えずに、彼女は黙ったまま私に文句の視線を寄越す。
無表情な彼女の微細な感情の発露が分かる者は、ここでは私以外いないだろう。
しかし、文句を言いたいのはこっちのほうだ。
狼の群れに、ウサギの外見が飛び込んだとは思わないのだろうか?
自覚に乏しいとは思わない。頭の回転はいいんだから。





「すまなかった。ここはこんな場所だからね。
 もう、君は席をはずしたほうがいいのでは?」



いかつい軍服を着ていても、こんな華奢で可愛い女なんか、お目にかかったことがない。
奴らにとっても格好の餌食だ。野次はまだ止まらない。




「なんだ?そこの錬金術師さまは、この色男とデキてんのか?」




牢屋から聞こえる、ひときわ高い揶揄に、周りの者がどっと笑った。
それに呼応するように、彼女がふっと笑顔を見せる。



それはとても花のような笑顔だったから、
それを見たものは誰でも一瞬、時が止まったかのように目をみはった。





「ばかな連中だ」





一泊後に放たれた彼女の言葉は、可愛い声に似合わない罵倒。






「いきなりやらせろと迫れば、どんな開放的な女でもイヤだと言うに決まってる」
「・・・・・・・・・・は?」





いきなり何の話を・・・





外見にふさわしい甘い声。
それにふさわしくない言葉が唇からこぼれ出る。





「ところがここにいる黒髪の色男は」





私?
ちょっといやな予感に顔をしかめる。






「朝に夕に時間をかけて、あの手この手で相手の心に入り込み
 最終的には一晩中、朝までベットでたっぷり目的を果たしてしまう。
 言っておくけど、諸君らが相手にするのはそういう男だ」






こらこらこら・・・・・






「・・・・・・なにを、言ってるのかな?君は・・・・・」
「女の口説き方をみれば、その人間のあり方も少しわかる」






それと軍の牢にいるテロリストの人となりが関係あるか!?
自信満々な様子だが、君がえばっても可愛いだけだ。




「ここにいる連中は短絡的で直行型。まるで猿。猿ばかりだぞ。
 ほら、動物園のサルと思えば気も楽だろう。がんばれ、ロイ」
「いや、言葉の通じない動物相手と思うと気持ちが一層重くなる・・・」





私の言葉は、彼女にあっさり無視された。
牢の連中とは違う華やかな笑い声をあげながら、彼女が立ち去っていく。
本当に、可愛い外見と声のわりに、この性格はなんだろう?




普段はまったくと言っていいほど無口なのに、
口をひらくと必ずえげつないことをいうのだから。





「ほぉお・・・この色男の兄さんがねぇ・・・・」
「俺達の相手ってわけかい・・・」
「今の姉ちゃんの話から察するに、あの姉ちゃんは色男の兄ちゃんと
 あんなことやそんなことをしたってことか?なぁ、そうだよな」





不穏な空気があたりに満ちる。
本当に、あの娘は何しに来たんだ。



頭をかかえたくなるのをかろうじて抑えて、調書をまとめたファイルを開く。
これから書き込むものも、すでに書き込みがされてるのもある。
名前すら分からず、写真のみのものも。






実際、彼女の言う言葉は正しい。





彼女は男勝りで負けず嫌い。
私の出世に遅れをとることなく、並んで出世してきた傑物だ。
もちろん色仕掛けでなく、実力で。




そんな彼女に想いを伝えて、何年も袖にされて、あの手この手。
5年以上の歳月をかけて(学生時代から数えれば10年近くかもしれない)
5回以上告白して、同じ数だけ振られてきた。




ようやく彼女を射止めて、今に至るも・・・・・・





動物園のような檻は相変わらず奇声とむさくるしいだみ声に溢れ、
調書を取りたくても大人しく従う者もいなそうだ。
この光景と、その状況を悪化させた彼女を思う。
絶対、私で遊んでいるに違いない。





先が思いやられる・・・。





『朝までベットでたっぷり目的を・・・』





みてくれは最高に良いし、頭の回転も良い彼女。
性格も破天荒に見えて、仕事ではとても繊細な思考を見せる。




そして実は、とてもとても真面目な性格。
そんな一面を知ったのは、付き合ってから。
正直、私を振りながら他の誰かと付き合ってると思っていた。
彼女は洒落にならないくらい、本当にもてる。



・・・なのに、何も知らない無知な少女だった彼女。
勝利を感じたのは、あの時だけだったけど。



思い出して頬が緩む。
まだまだ彼女の知らないことを教えてあげられることを思えば、
今、動物園で苦労するのも悪くない。




そう思って、私は檻の群れに皮肉たっぷりに笑顔をむけた。










このヒロインで新しい話を書く予定でしたが、もう出てこないと思うので。
拍手のみのヒロインになりますね。ちょっと残念だけど・・・