「どうして・・・・?」


かすれた声。
ごめんね。私が悪いの。
分かってるんだけど、あの時は仕方なかった。



「指揮官と・・・・・アイツと、そんなことあったなんてな」



すごく昔の話。そうとう前
ジャンが、今のマスタング大佐の下につくよりずっと、前。



ジャンを前線に送ることを脅しのネタにされて・・・・
私の意志に反してのことだった。
知れば、ジャンは苦しむと思って言えなかった。
指揮官に抱かれながら、何度も影で泣いた。
誰にも言えずに。




「どうして・・・・俺に何も言ってくれなかったんだ」
「・・・・・・・・・え」
「何をネタにされたかなんて、想像がつくよ。俺を前線に送るとか、そんなとこだろ?
 どうしてそれを俺に言えなかったのかも・・・・お前、優しいもんな。
 だけど、言って欲しかった。俺は軍人だから、前線に行ったって構わなかったんだ!」




それは結果論だ。
そう、だれが言ってもおかしくない台詞。


でも、ジャンは私が相談すれば、きっと。
『なんだあのゲス野郎、俺の留守に手出したら許さないからな』
そういいながら、ジャンは私を守って前線へ送られていったに違いない。
そしたら私は、彼を追っていけるとこまでついていった。



そう、すれば、良かった?
ジャンが死んだかもしれなかったのに?




「・・・・あのころ、お前ちょっとおかしかったもんな」
「・・・・・・・・」
「ずっとずっと、普段はいつもどおりなのに、影で泣いてたりして」



気付いてた。
彼はいつも私に優しくて、気遣ってくれる。
あのころはジャンが特に優しくて、私はそれが余計に辛かった。



「俺を前線に送るって言われて」
「・・・・・・・・・・」
「俺が、そこへ行ったらかえってこれないと思った?」
「・・・・・・・・・・あなたを失うのが怖かった」
「指揮官に抱かれたら、俺を失うことはないと思った?」



首を振る。
そんなこと、一番先に考えた。
ジャンは不正も浮気も嫌いだもの。
許されない。きっと。





「・・・・・・・・・・私があなたを失っても、あなたには生きていて欲しかったの」
「そっか・・・・・・ごめんな。俺のせいか」
「・・・・・・・・・・・そんな言い方は、やめて」
「そうでも言わないとやりきれねぇよ」





ジャンが、私に手をのばす。
肌を沿う大きな掌。
柔らかく剥ぎ取られる衣服。
キャミソールの肩をはらりと落とされて、
でも服は下に落ちることなく私の胸に引っかかる。
そこからさらに、ジャンの指が下へなぞる。
ゆっくりと、剥がすように。



近づいてくる唇。
でも、それが愛情を示すものである以上に、
懲罰的な意味を持つことを私は知ってる。



「別れ話をした後に、これから別れる女を抱くのは初めてだ」



ジャンの言葉が胸に突き刺さる。
抱き合ったあとの彼はとても優しくて、幸せを実感できた。
でも、その過去にもピリオドが打たれるだろう。
きっと彼は冷たく去っていくに違いない。


今、ジャンを拒むことは、きっとできる。無理強いする人じゃないから。
けど・・・・別れることは、止められないと思う。
でもジャンにとっても、別れる女に手を出すことは苦しいに違いないのに。




優しいのはジャンのほう。
彼が女性を痛めつけることはない。
ことに肉体的な意味では、絶対に。




私の気持ちを知って、私が苦しんだことを自分のせいだと自分を責めて。
だけど私が、ジャンという恋人がありながら他の男に抱かれたことは許せない。



そんなジャンの苦しみは、私と一緒にいることで増していく。
愛していても一緒に生きていくことはできない。



私が過去にした裏切りの仕返しにしては随分自虐的。
今私を抱きながら、そんな自分を責めるんでしょう?
だけど、そうせざるを得ないくらい、私のこともうらんでる。





「ごめんな・・・・・・」





行為の後につぶやかれた言葉。
きっと別れることになる。そう思って覚悟はしていた。
たった今抱かれてる間も、愛してるとつぶやくこともできなかった。
私にその資格はない。







「こんな思いをさせて許されるはずないけど・・・・」
「・・・・・・・・え?」



ジャンの台詞は私のなかの予想に反したもので、思わず聞き返す。



「他の男に抱かれる事態にしたのは俺の責任だ・・・俺が、もっと・・・・」
「・・・・・・・・・・・許してくれるの?」





苦しそうなジャンの顔。
葛藤が手に取るように分かる。




「別れ話をしてるのに抱く男を、どう思う?」
「いきなり何を・・・」
「未練たっぷりって気がしないか」
「ジャン?」
「・・・・・・・・・実際、未練がましい男なんですけど」
「いきなり敬語・・・」
「こんなに混乱した気持ちのまま、君と別れるのはいやだ」
「・・・・・・・・!」
「この先、やっぱり一緒にいられないと思うときがくるかもしれないけど」



今は、そんな先のことまでは知らない。
一緒にいたい今の気持ちを大事にしたい・・・



そう小声でつぶやくのが聞こえた。
ああ、混乱の極致なんだなあ、とボンヤリ思った。
冷静に見えて、言葉もつじつまも合うのに、
それでもこの人は、私のことでこんなに混乱してくれている。
私はなんてしあわせものなんだろう。





抱き合った後で、いつも優しくしてくれた想い出は、
最後に塗り替えられることなく、この先も続いてく。



はらはら落ちていく涙を止められなくて、私は両手で顔を覆った。
ジャンが心配そうに私を覗き込む。



「・・・・やっぱり、こんな俺はダメかな」



首をふる。




「だめじゃない。でもひとつ、お願いがあるの」
「何?」



別れると思って抱かれた記憶の後を、上塗りしたい。
愛されてると実感したいの。
私のすべてを捧げた愛しいあなたに。



「もういちど抱いてほしい。今度は、愛してるって言いたいから」




そうしたら、今以上に激しい愛撫と、優しいキスを。
私はジャンのカラダに腕を回して、そっと抱きしめた。











えっちの相性は大事ですからね・・・たぶん。
でも愛情があれば、相手を思いやるから相性も良くなるって聞きました。
そんなものかなと思いつつ。そうだといいなあ。