「ハボック少尉、フェリー曹長。お疲れ様です」


通りすがりの憲兵に敬礼され、ハボックとフェリーが答礼する。


「今の奴って・・・」
「ハボック少尉、ご存じなかったんですか?青の団の時の・・・ほら、憲兵隊所属の下士官。
 ちゃんが怪我を治して・・・・告白したけど振られたって噂の・・・」
「それは知ってる。どうしてここに?」
「司令官付きの身辺護衛ですよ。警務科の仕事ですから」


司令官の警務とは、将軍に付くということだろう、とハボックは検討をつける。


「青の団の影響か?ご苦労なことだな・・・・は大丈夫かなあ」

ハボックが廊下から窓の外を眺めた。
誰ともなしにつぶやいた言葉に、フェリーが敏感に反応する。


「大丈夫だと思いますよ。それより他の男たちが心配です」
「他の・・・?」
「すごいですよ。前まで歯牙にもかけなかった元指導役まで、色目使い始めましたから」
「まじか!?あいつ節操ねえなあ!」
「もちろんちゃんは相手にしてないですけど・・・元上官だと気を使うみたいですね」



ハボックが、背の低い曹長をしげしげと見下ろした。


「お前、詳しいなあ・・・」
ちゃんの評価は、もともとそんなに悪くなかったですからね。外見は特に。
 化粧の厚い軍属の女性より肌にハリもあるし可愛いですし・・・あ、一般論ですけどね」


ちょっとどきっとしたように見えたフェリー曹長は、眼鏡のズレを直してにっこりした。








一方、司令部でブレダも机に向かいながらため息をついていた。




長いストレートの黒髪に、白い肌、大きな瞳と長い睫毛。
華奢なラインを描く身体も、不健康ではなく、魅力的。

ついでに言うなら、声も仕草も、目にする度いちいち惹かれてしまう。
はっきり言って好みだ、と。



そんな恋心を打ち明けられたことがある。
に振られたと噂の憲兵に。



あれは確か、憲兵がを食事に誘ったばかりの頃。
ハボックが野次馬根性でからかったら彼は真面目に答えていた。



いい奴なのかもしれない。



だが、その場にいて、その光景を逐一観察していたブレダは、そのときの様子を思い出して頭を抱える。



どうやらフェリー曹長ものことが好きらしい。
フラれた憲兵も、多分諦め切れていない。
そのうえ、を厳しくしていた元上司がアプローチしてるらしい。
いじめる理由は好きだから、なんて小学生みたいな男だ。
あきれているのは自分だけじゃないだろう、とブレダは思う。

(やっぱり振った原因はハボックか?)



多分、ブレダの予想では、がすきなのはハボックに間違いない。
そのことを、あの朴念仁はどこまで分かって兄貴風を吹かせているんだろう?








はもてるよな。言い寄られたりするの見たことあるぜ。
 幼馴染が女として高い評価されてるって、兄貴分としてはどうなんだよ?」


仕事帰りの居酒屋で、そう言ってブレダがハボックをからかう。
だが、ハボックは話題に気乗りしない様子でウイスキーをなめた。


「・・・いやー、あれはまだコドモだ」


ハボックが手で弄ぶグラスから、カランと氷の音がした。



「なんでそんなこと分かるんだ?」
「なんだよ、もしかして狙ってんのか?」


まさかな、と小さく笑ってハボックはグラスをあおった。


はコドモなのに外見が可愛いってモテるんだよなぁ」



(・・・・・そんなわけないだろう。外見だけじゃないから今モテてるんだっての)
これ以上は誤解を招くので言わなかったが、ブレダは心の中でため息をついた。


そんなアイドルみたいな一過性の評価ではないのだ。
外見でいうなら、あんなほっそりした少女体型はブレダの好みではない。
胸も尻もでかくて腰が細いのが好きだ。その辺は多分ハボックとかぶってる。
それでも彼女のことは可愛いと思うし、性格にも好感を持っている。





噂をすれば影。
入口の鈴がカラカラと音を立てて、フェリーとが入って来た。



ちゃんと飲むのは初めてだね」

嬉しそうにニコニコと話しかけるフェリーに、が笑って頷く。



わざわざ声をかける無粋をするのもどうかと思ったブレダだが、ハボックは頓着しない。

「珍しいな。二人とも、こっちこいよ」


鷹揚に手を振って、居場所を知らせる。
フェリーの気持ちになど気付いてもないんだろう、とブレダは思った。
ハボックを認めたフェリー曹長は、一瞬目を見開いた。
だが、残念がる様子も見せず素直に同じテーブルに座る。
そして当たり前のように、ハボックの隣にが座った。



ブレダは心の中でそっとフェリーに同情した。



―――――――――ご愁傷様。




、飲めるのか?」
「・・・・・・・ん、多分」


ハボックの問いに、少し物怖じするようにが答えた。



「なんだよ多分て」
「・・・・・あんまり、こういうとこ慣れてなくて」
「ははっ。ホントお子様だな―」


緊張した様子のをハボックがからかう。
軽い笑い声が、ざわつく店内に吸い込まれた。



「じゃあビール頼んどくか?飲めなければ引き受けてやるから」
「ありがとう」


ほっとしたように微笑んだの顔。
花が開いたような目映さに、他の席の客までが見とれている。



確かに、日を追うごとにますます綺麗になっている。





――――――――――これもやっぱり、ハボックのせいか・・・




ハボックの隣で軽いカクテルについて話を聞いているをみつめながら、
ブレダの脳裏に、振られた憲兵が浮かんだ。



もうひとつ腑に落ちないのは、ハボックのへの態度だ。


幼馴染の態度としては、親密すぎるような気がするし、
かといって本命にしては、公然としすぎるような気もする。



ハボックがそんな様子だから、憲兵はに振られても諦めきれず、
フェリーは飲みに誘って彼女の心を振り向かせようと試みる。


(まったくどいつもこいつも・・・)




ブレダは軽くため息をついた。
そして、悪いことは続くもので・・・入口の開く音に、何の気なしに振り向いた。
その先にいたのは、に振られた憲兵。


ばっちり目があってしまったブレダは、愛想笑いを浮かべつつ
面倒くさいことになった、と苦々しく思った。