「あの二人、つきあってるのか?」

この一言が、尾ひれをつけて『付き合ってる』の肯定へ変化する。
噂なんて、広まるのは簡単だ。



「え?ハボックとじゃなくて?」
「俺もそう思ってた」
「でも、違うらしいぜ?ブレダ少尉だってよ」
「なんで・・・あんなデブに取られるんだよ!」
「頭の差じゃねえの?」


好き勝手話す声が耳に入る。
何とでも言えばいい。否定しても、噂に尾ひれがつくだけだ。
そう判断してブレダは嫌悪のため息をつく。面倒くさいのはキライなのだ。



でもオフィスに戻る手前でハボックとフェリーが話す声には、つい聞き耳をたてた。



「噂、ホントですかね。ちゃんとブレダ少尉・・・」

かわいそうなくらい萎びた姿のフェリーは、連日の残業も加わって、かなり憔悴している。



「ああ、ただの噂だろ?最近一緒に飲みに行ったりしてたからな」

ハボックは、いつもどおり何の気もないようなそぶりでフェリーを励ます。



「ただの噂って・・・どうしてそう言い切れるんですか!?」

を好きなフェリーは必死だ。



「簡単。がすきなのは俺だから」

ハボックは、そんなフェリーを前に、こともなげに言ってのけた。




「ハボック少尉・・・それって・・・」
「冗談だよ」
「冗談に聞こえませんよ!!」
「そ、そんな必死に言うなよ。ほんとに冗談なんだから」



フェリーの剣幕に、たじたじになってハボックが取り成す。ものすごく必死だ。
一瞬、コイツは最低野郎か?と思ったブレダだが、その考えが誤解だと知る。



「ほんと、違うから!は幼いとこあるから、恋愛なんかまだまだ・・・」



そんな必死なハボックに、フェリーがため息をつく。

「これじゃ、噂が本当でも驚けないです・・・最近良く一緒にいるみたいだし」
「そうなのか?ブレダとが?」
「知らなかったんですか!?」
「・・・・ああ、まあな」


ハボックはイングリードの尻を追っかけるのに忙しいらしい。
自分の噂話を聞いて中に入りにくくなったブレダに、声がかかる。
振り返ると、ハボックが夢中になってるイングリードの姿。


「ちょっといいかしら」
「イングリード・・・ハボックに用?」


声の主に話しかけると、意外そうに目を向けられる。


「そうよ。悪い?」
「悪くないけど。・・・ハボックで遊んでんの?」


いきなり言う台詞じゃない。
だが、目を丸くするイングリードは、次の瞬間くすくす笑いだした。


「・・・・・・悪い。ぶしつけだな俺」
「面白い人ね」
「失礼な奴って思ってんだろ」

くすくす笑うイングリードは色っぽい女だ。
これがハボックの好みなのか。確かに見た目はいい。ブレダの好みでもある。


「・・・あなた、ハボックの親友でしょ?少し話さない?」
イングリードから意外な申し出がでた。




一緒に廊下を歩きながら、世間話をするみたいにイングリードが切り出した。

「ねえ。ハボック少尉には誰か忘れられない人でもいるの?」
「なんで?あんなに夢中になって追いかけてるのに、あんたのこと」
「表面上は、そうなんだけどね・・・。女の勘かな」

イングリードは、軽くため息をついて、首をふる。


ブレダは相当のハボックの女性遍歴を知っている。
ハボックの人生を変えたくらい、一番忘れられない女の存在も知っている。
けれど、男の友情であえて知らぬ顔をすることに決めた。
本心を言えば、これ以上の面倒もゴメンだ。


「・・・いつも今の恋愛に一生懸命にみえるけど?」
「でも結局続かないでしょ?誰とも長くは」

女の情報網はすごい、とブレダは舌を巻いた。
赴任してきたばかりのイングリードが、もうハボックの女性遍歴を知っている。



「・・・けっこう耳に入るのよ。ああ見えて、彼ってモテルから」
「ふうん、だから奴を試したりするわけか。あんたって、いい女だな」

イングリードは、ただのお色気女ではない。
ハボックも目が高い。・・・というか、ハボックの狙う女はたいていが高嶺の花だ。



「ありがとう。ジャンは、恋愛慣れしたふうな女に惚れる傾向があるみたいね。
恋愛慣れした女なら、別れても傷つかないとでも思ってるのかしら?」

淡々と語るイングリードの言葉が、そのとき妙にブレダの心に残った。



「ところで貴方、ハボックの幼馴染の可愛い子と付き合ってるんですってね」
イングリードが話題を変えた。



「・・・なんでそんなこときくんだ?」
「噂が本当か気になるから。あの子、ハボックがすきなんだと思ってたし」

がハボックを好き。だれでもそう思ってることは知っていた。
ブレダは聞き流しながら、お義理で質問する。


「どうしてそんなこと気にするんだ?気になるなら自分でしっかりハボックを捕まえておけよ」
「・・・なんとなく、よ。噂が本当なら、貴方こそ彼女、ちゃんと掴まえといてね」


ブレダがぎょっとしてイングリードをみつめる。
今の台詞の勘違いに気付いたのだ。

「今の『ハボックがすきなんだと思ってた』って、ハボックが・・・をすきって意味か?
がハボックを、じゃなくて。・・・ハボックがを・・・?」


動揺が伝わったのか、イングリードも少し声を荒げる。

「だから、止めなかったハボックの気持ちがわからなくて聞いてるんじゃない」
「ハボックは、知らないんだよ。噂の真偽なんか」

信じられない、という意思で、二人とも目を見交わした。
言葉が途切れたけど、それがなにより雄弁に語っていた。






そうしてそのころ、ひとつの大きな別れがきたことで、事態は大きく動き出す。