(こんなことになるなんて、思わなかった・・・)
部屋の薄明かりのなか、壁をぼんやりみつめては思った。
裸体にシーツを巻いてベットに横たわる自分。
数時間前には考えも及ばなかったことだ。
(どうして・・・・どうして、私・・・)
初めてだと知って、やめておこうか?とロイが言ったとき。
どうして自分はそれを拒んだんだろう?
頭に浮かぶのはいつも優しい笑顔で穏やかな紳士のロイで
さっきまでの彼はまるで別人のようだったのに。
身体を思うさま触れられて犯されたことを実感するのは痛みだけ。
の頭にいろんな景色が走って、涙が溢れた。
初めて出会ったとき、邸宅のベランダの欄干に巻きつく蔓から花が咲いていた。
その傍らに立つ若い少佐であるロイに、幼いは淡い憧れを抱いた。
社交界で会うたびに、なんとか一言だけでも話せたら、と念じるようにロイをみつめてた。
将軍への挨拶があるから、一度は必ず声を交わせることを知っていたけど。それでも。
幼い姿から、大人の装いになるにつれて、とロイにだんだんと距離ができていった。
はそれを悲しく思うことよりも、ロイの姿を見れる喜びを噛みしめた。
(私・・・・・この人のことがずっと好きだった)
だから、望むことをしてあげようとした。
それがたとえロイの満足のいくものではなかったとしても。
初めてで、うまくいくわけがない。気を使うばかりで、ロイは楽しめたんだろうか?
そんなことを思うと、はますます涙が出た。
ロイは、シャワーをすませて部屋に戻っての様子にため息をついた。
(まだ、泣いてるのか・・・)
自分のしたこととはいえ、苦い思いを拭えない。
何も知らないコドモに、大人の営みをしたのだから。
「。私を怒ってる・・・?」
泣いているの傍らに座って頭をなでる。
声をかけると、が泣き濡れた瞳をぼんやりと見上げた。
長いまつげが濡れて、薄明かりに輝いている。
が、鈍くなった思考にようやく質問が到達したかのように、ゆっくり首を振った。
「・・・・・ありがとう、ございました」
「?」
「私、初めての人がロイ様でよかった・・・」
ぼんやりと紡がれる言葉。
の言葉を、ロイは信じられない思いで聞いた。
「・・・・こんなことをしたのに?」
ロイの言葉に、のぼんやりした瞳が微かに動いた。
見交わされる視線。ロイは優しい眼差しのまま、をみつめた。
責められても軽蔑されても仕方ないと思っていたのに。
「は、恥ずかしいことを強要された・・・・・お礼を言われるなんて予想外だな」
恥ずかしいことを強要されたのだから、怒って当然。
だけど、に怒りはわかなかった。
圧倒的な力の差と、組み伏せられるだけの有利な状況にあったのに
が嫌がったとき、乱暴をやめようとしたからだろうか。
実際、乱暴はされたわけだけど、には確信があった。
多分、が本気で嫌がり続ければ、ロイは最後までしなかった。
「・・・・・・私、ずっと・・・・ずっと、ロイ様が好きでした。」
(これを言ったら、もうゲームも終わり・・・)
最後まで、どうか言えますように。
賞品としての役割は、多分終わったから。
―――――この言葉を言えば、目の前にいる好きな人とは、永久にさよならになる。
「でも・・・・賞品としての私は、役にはたたないとお知りになったでしょう?
私はまだ子供すぎて、貴方はきっと退屈してしまう。このまま・・・お別れを」
「賞品として・・・?役にはたたない・・・?」
ロイが、不思議なものをみるように、の頬へ手を伸ばす。
「・・・・・貴女は私が手に入れたひとなんです」
目を見開くに、ロイがゆっくり口付ける。
「賞品として、おもちゃとして、役にたたない私をこれ以上どうするの・・・?」
ぼろぼろ涙が出てくるを、ロイが困ったように見下ろしてくる。
「あなたは何か誤解している。私が貴女を賞品として獲得したと言ったから・・・」
「だって、その通りでしょう?」
「ずっと欲しかったお姫様。そう簡単に手放したりはしませんよ」
「ずっと・・・・?」
「貴女が私を好きだとは知りませんでした。・・・・感動ですね。
こんなことをしても気持ちが変わらないほど純粋に強く想っていてくれたなんて」
見下ろしてくるロイの、幸せそうな笑み。
は戸惑いながら、大きな瞳を瞬かせてそれを仰ぎ見る。
「私も負けないくらい強い気持ちで・・・・・・・貴女が好きです」
ロイの言葉が、ぬくもった部屋の温度に、ゆっくりと溶けた。
