目が覚めるとベットの上。
隣には大佐が寝ていた。・・・正確には、隣のベットに、だけど。
ここがどこだかすぐに分かった。病院の一室。
俺・・・・生きていたんだ。まずそれに驚いて、天井を見上げる。
タバコが吸いたいな・・・・・
そのときは、まだ自分の状態がどんなだか、何にも知らないで。
ただ生きていたことに安堵した。を迎えにいける。生きて、自分の足で。
「俺の両足、感覚ないんスよ・・・・」
それを告げたときの大佐の顔。
あんなのは初めて見た。
捨てていって欲しい。
一緒に行けないなら、一緒に並んで歩めないなら、一緒に進めないなら
その背中だけを追いかけて追いつけない惨めな気持ちは、辛いだけ。
一緒に目指すことができないなら、ここは引き時なんだ。
なのに、どうして・・・・・こんなに抜け殻みたいな気持ちになってるんだろう・・・
「ジャン・・・・本当に、こんなことになるなんて」
お袋が退役用の書類のやり取りや、病院の医師に話を聞くために上京してきた。
ちょうど検査のため、大佐は席をはずしてる。警護の人間が、扉の外にいるだけだ。
涙にくれる母親を見るのは、息子として心苦しい以外なにもない。
親不孝だなぁ、俺・・・・
そんな気持ちで扉のほうにいる母親を見て、目を疑った。
別れたはずの、が目の前にいる。
「・・・・どうして」
つぶやく俺に、よりも母親が答える。
「だって、お付き合いしてるんでしょう?知らせないとって思って、母さん連絡したのよ」
付き合ってるときに彼女を親に紹介したけど、別れたことを知らせてはいなかった。
今の姿なんか、むしろ一番見られたくない人間なのに・・・・
「・・・おふくろ、余計なことしたな」
「親に向かってあんたって子は・・・わざわざ仕事休んでまで来てくれたのに」
「ごめんな。仕事困るだろ?もう戻っていいよ」
「ジャン!あんたって子は、まあ。ゴメンナサイね、ちゃん」
母親にも俺にも、は曖昧に微笑んでたたずんでいる。
いつも以上に無口で、この状況に困ってるようにも見えた。
「おふくろ、書類とかいろいろ手続き取るのに、代わりに行かせてゴメンな。
ついでといっちゃなんだけど・・・・タバコ頼んでいい?」
「こんな身体になっても吸うの?医者には止められてるんでしょ?」
「一日一本は許可されたんだよ。ないと落ち着かなくて」
俺の言葉に、ぎこちなく言葉をはさんだのはだった。
「あの・・・私、行ってきます。お母様は長旅でお疲れでしょう?ここで座っててください」
「あら、いいのよ!ちゃんが行くことないわ。仕方ない息子ねえ、本当に」
そう言って、母親が病室を出て行った。
本当はタバコはブレダが差し入れてくれたから余裕はある。
と話すには母親は邪魔だったから、口実にしただけ。
「・・・・・なんで来たんだよ?お袋に、別れたって言えばよかったのに」
「お母様、連絡してきた途端に取り乱して泣き出したのよ。かわいそうで、私・・・」
「それで今も付き合ってる振りか。そっか・・・・気を使わせて、悪かったな」
「ううん・・・こっちこそ・・・。彼女に誤解されないようにしなきゃね」
意味が分からなくて、を見返した。
不思議そうな俺の顔を見て、が付け足す。
「・・・・セントラルで新しい彼女が出来たって、同僚の人に聞いたの」
口ごもるように言う。
その言葉に俺の顔色が変わったんだろう。が不審そうに眉を寄せる。
俺は視線をから逸らして、手元をみつめた。
「・・・・ジャン?」
「・・・・・・・いや、別に」
を正視できなかった。
本当は、足がこんなふうにならなければ、無理やりでも休みを貰って会いに行っていた。
セントラルに呼んで、一緒に住もうと言うつもりだった。結婚を前提に。
何もかも奪われた未来が、黒く重く感じた。
「悪いけど、今日はもう帰ってくれないか。・・・・二度と、ここにはこないで欲しい」
を見る事無く、ただそう告げた。
これで何もかも終わりにしようと決めた。
軍人であることも。との未来を望むことも。
は立ち去って、入れ替わりに母親が入ってきた。
「あら、ちゃん?・・・・」
お袋に何も言わないで、ただ黙って出て行った。二度と戻らないだろう。
俺はこっちのフォローもしなきゃいけないのかと、気持ちが重くなるが仕方なかった。
立ち去っていく足音が小さくなるのを聞いていた。
ぱたぱたと小走りで・・・病院の廊下を走るなんて、らしくないと思いながら。
「・・・・はもうこないよ。俺たち本当は別れてたんだ。言わなかったけど」
仰天したような母親の顔が、ますます絶望に塗られていく。
足の動かない息子に残された唯一の心の支えとでも思ってたんだろうか?
それとも、先の未来で嫁が望めないかもしれない不安からだろうか?
どっちにしても、暗い顔を見るのはうんざりだった。
原因が自分だからなおさら。
どん底まで落ち込んで甘えたい願望は、本当は俺にだってあるのに
そんな姿を見せられたら、強がりでも何でも、いつもどおりに振舞うしかないじゃないか。
でも。
誰にもぶつけられない苛立ちや不安。
それを抱えきれなくなったとき、自分はどうなるんだろう・・・?
何日も寝たきりで、思うように動けなくて、力が衰えてくるような気がした。
焦燥感はある。だけど、何をどうしたらいいのか何も分からなくて
迷路にはまったみたいだった。
ナントカなると強がっても、本当は信じたくない、何もかも信じられなかった。
