ここは、どこだろう?
ここは・・・・そうだ、とよくデートした喫茶店の近くの・・・
無事に帰れたら、ともういちどやり直そうって決めてたんだった。
新しい彼氏ができたかと思ったけど、再会を承知したってことは、まだ独りだろう。
他の奴に奪われる前に、俺がもう一度手に入れるんだ。
たくさん話をしよう。
今まで話せなかったいろんな話を、に聞いてもらいたい。
がいつもの不満げな様子を見せたら、飽きるまで話を聞こう。
人間同士が本当に分かり合えるかどうかは、議論したらきりないけど
分かり合おうと歩み寄ることができたら、とりあえず第一段階はクリアーだろ?
セントラルで、いろんなことがあったんだ。
ここに戻ってくるまで、ずいぶん回り道をしたような気がするよ。
角の花屋で、花束を買っていこう。
君は俺の身勝手に怒って拗ねて機嫌が直るまで大変かもしれないけど。
いつも最後は笑って許してくれた。
本当に、望む言葉が言えたと思えたのは一度だけ。
同じことを言っても、同じ顔はもうしてくれないかもしれない。
まぶたに浮かぶのは、付き合ってくださいとお願いしたときのはにかんだ顔。
その奇跡がまた起こりますように・・・
目が覚めて、病室の白い天井と仕切りのカーテンが見えた。
変な夢だ。確か、ラストに傷をつけられて遠のく意識で、同じものを見たような気がする。
会いに行かなくては会えないと思っていた人に、セントラルで再会した。
自分からサヨナラを告げたのに、なぜか今も側で見守ってくれている。
そんな奇跡に、今頃気がついた。
ベットに寝ていると、いろんなことが頭に浮かぶ。
大佐はさっさと制服に着替えて退院してしまった。
怪我がそんなに軽かったとは思えない。無理をしてるに違いない。
そんな事を思っても、今の俺には何もできないけど・・・・・
今の、俺にできることは何だろう。
そう思ってベットの回りを見渡す。
そんな場所に答えなんかないと思ったけど、他に方法なんかないんだから仕方ない。
でも目に入ったものは、あまりにも単純にその答えを示していた。
「入るわよ、ジャン。退役の書類だけど・・・」
「おう。悪いな、お袋」
俺が手にしたものを見た母親が、素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっと何やってんの!!」
「筋トレ。ブレダにもらった」
「そうじゃなくて!まだ傷口完全に塞がってないのよ!?」
「だって身体がなまるもんよー」
何気ない風に答える。
ユイにもらったチューブを使っていた俺を見て、ブレダが『コレも使え』と持ってきた。
久々に握力を鍛えるなんて地味なことをした。
軍隊にいたときは、もっと直接的に鍛えられるから、こんな道具はあまり使わない。
五体満足のときはわからなかった道具のありがたみが、今になってわかる。
俺の身体では、腹筋も背筋も腕立ても屈み跳びも、鍛える動作が何もできない。
なのに、周りの連中はまったくなんて容赦ないんだろう。
「ダチにゃお前に隠居は似合わねえって言われて、
上司にゃとっとと登って来いって言われて・・・ひでー奴らだよまったく。
じっとしてらんねーじゃねぇか」
同時に浮かぶの豪傑ぶり。
ずっと側にいたことで、本当はどれだけ苦しかったろう。
ずっと俺の支えになることを、決めたかのように側にいた。
「退役とりやめるの?」
母親が困ったように・・・むしろ安心したようにも見えるけど、
俺にもうひとつの可能性を提示してきた。
「いや。こんな状態でしがみついても迷惑になるだけだ。
軍にいなくても追いついて喰らいついてやるよ」
俺の言葉に、母親が静かに言った。
「・・・・リハビリ相当きついって、お医者様言ってたわよ」
脳裏に浮かぶのは、東方司令部から一緒だった仲間の顔。
「耐えてみせるさ。皆待ってるから・・・・皆のおかげで耐えられる」
止まっていた時間が、ようやく動き出した。
