街灯に照らされた小道は、静かで寂しかった。
誰もいない綺麗で孤独な空間。

今日一日を振り返ってみると、自分が少し情けない。

誘われた食事は、美味しかった。
会話も楽しかった。
帰り道を送ってくれるという申し出も、嬉しかった。

だが、それはそのまま、あることを証明している。
その背後にある気持ちに何も気付かずに
ただ甘えていたという事実。

・・・なんで気付かなかったんだろう。

はため息をひとつついて、唇をかんだ。

だって、あんまり話したことない人だし
友達として、お近づきになる誘いかと思ったし・・・

そう言い訳して、それは違う、と思い直す。

本当は、周りで話しか聞いたことのなかった出来事が
初めて自分の身に起こったから驚いたのだ。

まだまだ自分には縁のない出来事だと勝手に思い込んでいたから。


「ジャンの言うとおりだったな・・・」

それはデートだと教えてくれたのに、否定した。
本気でそう思ったから。
でも、他の誰かと過ごした時間で、気付いたことがある。
楽しい時間だった初デート・・・でも。

・・・誰と一緒にいたって、ジャンといる時ほど楽しくはなれない。

あの時、少し不機嫌そうにしていたハボックの顔を思い出す。

――――あんまり鈍くて、呆れられたかな・・・

は淡いクリーム色のワンピースのすそをつまんだ。

胸元にビーズの刺繍が施され、スカートの切り替え部分にリボンがある。
それ以外はいたってシンプルなつくりだ。
だけどシフォンの生地の手触りが良く、形も美しく見える。

こういう場での正装は初めてで、わざわざ新しく買った服だった。

なんだかんだ言っても、知らない場所に連れて行ってもらえると思って
喜んで準備したのだから始末が悪い。

ささやかだけど、世界が広がる気がしたのだ。

誘ってくれた人は、帰り道にに気持ちを打ち明けた。
の反応は、・・・自分でも最悪だと思う。

「もう、冗談ばかり」
にっこり笑って言い切った。
ハッキリ言われて、まだ分らなかった。鈍さこの上なし。

相手は可哀想なくらい消沈した姿になった。
それで、は一気にいろんなことを理解したのだ。
まるでパズルがいきなりすべてはまったかのように。

「あ・・・・あの・・・私、気付かなくて。えっと、どうしよう・・・ごめんなさい」

がいつもするような、静がで落ち着いた言い方ではなく
どちらかといえば、しどろもどろで格好悪い姿。

相手も、おや?と顔を上げた。
そのくらい、それはには珍しいこと。

しかし、相手は逆にその姿になぐさめられたように、に笑いかけた。
それは、寂しさや、失望や、いろんな気持ちを抑えた笑顔。
大人の顔だった。

なんとなく泣きそうな気持ちになって、はうつむいた。
その人を、優しい人だと思ったから。

だけど、それに反して思い浮かぶのはただ一人の人で
はそのことに自分でも驚いていた。

どうして、今このときに、考えている人間が目の前の人じゃないんだろう・・・

いつも飄々とした笑顔
不機嫌でも隠さないふてぶてしさ
煙草を持つときの無骨な手
すこし固そうな金髪
耳障りのいい声

幼馴染の、お兄さんで、職場の先輩。

「本当に、本当に、ごめんなさい・・・」


は、尚も送るという相手の申し出を断って、途中の道で別れた。

足が痛い。
ドレスに合わせて選んだ細いヒールの靴が、合わないのだろう。
しかし今はこの痛みが、自分にふさわしいもののように思えた。