第一話 再会
雨上がりの晴れた空を見上げる。
木漏れ日で雫がきらきらしている。あざやかな緑。
少しだけ濡れた道を真っ直ぐ進む。
目の前に、大きな建物が見えてきた。
高鳴る胸を抑える。
あれが東方司令部。今日からここが勤め先。
広いアーチを抜けて、司令部にたどり着く。
見上げると、空に抜けるような高さで、思わずため息が出た。
同じ東部だというのに・・・
自分のいた村に、こんな建物はひとつもなかった。
入り口で深呼吸をして、ドアに手をかける。
その瞬間、ドアが開いた。
勢い、ドアを掴んだ手ごと身体が引っ張られる。
大きく体勢を崩して前に倒れ込んだ。
このままでは転ぶ。覚悟して目をつむった。
・・・あれ・・・?
痛みがない。
倒れかけたところを、誰かに抱きとめられたのだ。
「すみませっ・・・」
転んだ自分を、ドアを開けた人が支えてくれたのだと瞬間的に悟る。
ぱっと顔をあげ謝罪を言いかけて、驚きで言葉が途切れた。
目の前にいる若い金髪の将校には見覚えがあった。
「ジャン・・・?」
ジャンと呼ばれた将校は、驚いたように目を見開く。
まじまじと少女を見つめた後、ゆっくりと言った。
「誰?」
奇妙な間があいた。
一瞬どう対応するか迷ったが、彼は昔のことを思い出せないでいる。
しかし今日からここで働くからには、彼は先輩。
支えられていた身体を離して、ペコリと頭を下げた。
真っ直ぐな黒髪が、さらりと流れる。
「・です。今日から東方司令部でお世話になります」
顔をあげたがにっこり笑っても、ハボックはまだ驚き顔のままだ。
だが、次の瞬間、
ハボックの両手がの髪をさらりとかきわけ両頬に触れた。
手首が返り、は上を向かされる形になる。
ハボックの顔がとても近い。
が驚きの声をあげるより早く、懐かしさとも驚きともつかない声が響いた。
「!?本当に、あの小さかったか?」
「ジャン・・・忘れてるのかと思った」
「忘れねえよ!見違えた」
昔と変わらないハボックの声を聞いて、は嬉しかった。
「そんなに変わった?」
昔と変わらぬ緑の黒髪と大きな瞳。
あの頃よりも手足が伸びて、肩までだった髪は今は腰まである。
「よく見ると顔はあんまりかわんねえな。でも印象が全然違う」
「あの頃は、わたしもまだ幼かったから」
「今日からここで働くって?」
こくんと頷くに、ハボックは初めて当惑した様子を見せた。
「・・・なんで、また・・・」
平和な時なら、軍の仕事も危険は少ないかもしれない。
だが戦争の傷跡は生々しく、今の世の中、明らかに軍は軍でしかない。
活発な子なら、勇敢であることを望み、憧れから軍を志すこともあるだろう。
ハボックはの幼い頃を知っている。そんな印象の少女ではなかった。
それとも、ハボックが知らなかった年月に変化があったのだろうか?
だとしたら・・・
「・・・おれが知ってるのは、近所のお兄さんの嫁さんになるって言ってた小さな女の子だ。
まさか、軍人にもなりたかったなんて知らなかったぜ?」
は困ったように少し笑った。
「そういえば、私、ジャンのお嫁さんになるって言ってたっけ・・・」
ハボックはが軍人になった理由は聞けなかった。
入り口がバタンと開き、憲兵が身体半分を覗かせたのだ。
「少尉!急いでください」
「おう。今行く」
ハボックがの肩越しに声をかけた。
「仕事?」
「うん、まあな」
「いってらっしゃい」
「ん。受付は階段前すぐだから」
が困らないようさりげなく道案内をすると、ハボックは扉の外へ出た。
新しい職場で、知ってる人間がいるのは心強い。
は足取りも確かに受付へ向かった。



読んでくださってありがとうございます!
維月初めての長い連載になります。頑張りますので、どうか最後までお付き合い下さい。
