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街中に響いた教主の声。
正体をさらけ出した彼に、街中の信者が疑念と怒りの矛先を向けた。


教主の野望を打ち砕いたエドに、ロゼが取り乱す。
死んだ恋人を生き返らせることを、簡単には諦められないのかも・・・。

大切な人を失った辛さを、エドもアルも知ってる。
ロゼの嘆きは、見てるほうが辛いんじゃないだろうか。


「立って歩け。前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないか」



そう言ったエドの言葉が、胸に沁みた。







街中の人が教会に押しかけて、暴動が起こっている。
逃げるようにしてここまで来たけど、本当に怖かった。

いまや修道女の服装は、信徒同様疑惑の目を向けられてる。
ロゼの事も気になったけど、あまりの騒ぎにそれどころじゃなくなった。


孤児院の子供たちを連れて、とりあえず駅まで逃げてきたけど・・・。
ここから先、どこに行けばいいだろう?



ふと駅の案内板を見る。

ここの街がリオールという名前であることを示すプレート。
街を出てくときに、この場所の名前を初めて知った。

多分、もう二度とここにはこないだろう。




駅の電話を探して、構内を見渡す。
東方司令部に電話をかけて、教会を調べてもらわなきゃ。


「・・・・あれ、?どうした?こんなとこで」
「エド、アル・・・駅に来たのね。私は、電話を探してた」

私の言葉に、エドが目を丸くする。

「電話?奇遇だな。俺達もだ」
「私・・・・かけかた、わからないかも」
「どこにかけたいんだ?」
「東方司令部」



エドの顔が、本気で驚いた表情になった。
絶句した、とでも言えそうなくらい。


「・・・・・東方司令部?何でまた・・・。って何者?」

アルの言葉に、私は困って首をかしげた。
何者、といわれても答えようもない。


普通なら、教会に軍が立ち入ることは、信仰を土足で踏みにじられるようなもの。
信徒と市民の団結した反発を、相当覚悟しなきゃいけないけど。
エドのおかげで、今なら市民の感情を悪化させずに教会に踏み込める。

暴動もテロも、一挙に解決できそう。こんなチャンスない。


それに、孤児院の子供たちのことも頼みたいし・・・何より、大佐の声が聞けたら。




「まあ、いいや。かけるから、ちょっと待って」

エドが受話器を取って、ダイヤルを回し始めた。




電話が繋がったのか、エドが電話口で今回の件を報告している。
やっぱり国家錬金術師って、軍属なんだ。

何かを応答しながら、ちらちらと私を見る。
ああ、とか、ウン、とか。返事だけ短く答えてる。
電話口で何を尋ねられてるのかまでは聞こえてこない。



「だーかーら!修道女だよ。シスター。尼さん。・・・心当たりは?」

ああ。私のこと?


「ふうん・・・いいや。じゃ、とにかく代わるから!」


エドが受話器を私に差し出す。
ぐいっと伸ばされた手に握られた受話器を、お礼を言って受け取る。
電話口が誰だかわからないけど、東方司令部に繋がってるのは間違いない。



「・・・・もしもし」

すこしドキドキして、声を出す。
今まで会話なんか、避けられるだけ避けてきて、一時は口が利けないと思われていた。
電話なんか、緊張する・・・。



「・・・・・といいます。マスタング大佐にお話が」
・・・!?』


耳に届いた声が、一番聞きたかった人の声。
私は驚いて、一瞬言葉を失った。


?本当に?』



さっきまでのドキドキとは全然違う動悸がして、頬が上気した。
エドがさっきまで話していたのも、大佐だったの?



。みんながどれだけ心配したと・・・。無事な声が聞けて、嬉しいよ』
「・・・ごめんなさい」
『今、リオールに?修道女だと鋼のが言っていたが・・・危険はないのか?』


ものすごく危険な状況だけど、それより頼みたいことがあった。
私はこの人に、頼みごとばかりしている気がする。



「ごめんなさい。お願いがあって・・・」
『何か困ってるのか?私に出来ることはあるか』



目の端に、改札付近に集まって私を見ている孤児達と、年配の修道女がいた。
彼女のほうがずっと長く孤児院に奉仕していて、私は彼女の下で手伝っていたに過ぎない。


「リオールの教会が管理していた孤児院の孤児たちを、助けてください」
『了解した。・・・・君は?』
「私は大丈夫です。でも、年配の修道女は孤児たちの母親代わりなので、できたら一緒に」
『君は・・・いつも自分はそっちのけで、人のことばかり心配しているな』


電話の向こうから聞こえる大佐の声に、ほっとする。
孤児院のことも、お世話になった修道女のことも、この人が引き受けてくれるなら大丈夫。

そう思ったら、肩の力が抜けてふっと笑った。



教会の施設も建物も、危険でいられないから駅に逃げたことを告げる。
大佐が言葉を詰まらせて短く唸った。

『すぐに憲兵を迎えに向かわせる』



その言葉を聞いて、私は安心して頷いた。


エドとアルが、少し離れたとこから私を見守ってる。
彼らにむかってにっこり笑ってみると、エドがびっくりしたように顔を赤らめた。


。そこに、まだ鋼のはいるか?・・・もう一度かわってもらいたい』


私は受話器をエドに向けて差し出した。
エドが自分を指差して、「俺?」と聞いてきた。頷いて受話器を渡す。



「何?・・・・・・・いいや、偶然だけど。・・・・・・・うん、まあ」

大佐の声は、聞こえない。エドの短い返事が聞こえるだけ。
エドが電話で大佐と話すときは、なんだかすごく仏頂面。


「はぁ!?・・・・・・・っざけんな!!クソ大佐!!」

怒りに任せてガチャンと受話器を叩きつけるように戻したエド。
私はこっそりがっかりした。


ああ・・・。大佐の電話、切られちゃった・・・。


エドが仏頂面のまま私に振り向く。
少し口ごもるように、私の目を見ないで何かを言う。


聞き取れなくて、首を傾げてエドに近づく。
エドはまた顔を赤くして、今度ははっきり言葉を言った。


「いや、さ・・・。憲兵が来るまで、俺とアルも側にいるからっ」

私は驚いて瞬きした。
大佐が、私たちのことを心配して彼らに頼んでくれたの?
でも、エドの怒りようをみると、本意じゃないのかもしれない。

少し心配になって、じっとみつめてしまう。


「そのほうがいいね。兄さん、大佐に頼まれたの?」
「そんなの!頼まれなくても、そうしたさ」

エドが憤慨したように言う。


「ったく。中尉に言付ければ済んだのに、いきなり直に出るんだもんな・・・」
「何か怒ってたけど、何を言われたの?また・・・」
「女に守られるなよって言われたッ!バカにしてんだよ、むかつく!!」
「大佐がいきなりそんなこと言うかなぁ?」

アルが首を傾げる。
エドが背の高い鎧の兜に向かって、おもいきり睨みつける。


「言ったさ!が盾になるようなことがないように守れ、って!!」
「それって、の性格を心配してるんだよ」

アルがさらりと言って、エドの怒っていた表情が変わった。


「教会の信徒に銃を向けられたとき。合成獣に襲われたとき。
 は、自分を盾にして兄さんとボクを守ろうとした」

アルとエドの強い視線が私を見つめる。

「初対面の人間を命をかけて守れっていうのも、神様の教えなの?」


アルの言葉に、私は黙って首を振る。
兄弟はじっと、私が何か言うのを待ってる。


「私、修道院に入って日が浅いの。神の教義も受けてない」
「じゃあ、どうして」
「・・・・・反射的に・・・」

それ以外言いようがなくて、私は黙った。

この身体のことを説明するには、私も自分のことながら何もわかってない。
その曖昧なものを慣れない言語で話せっていうのは、無理。




大佐はどうして私が身体を張って誰かを守ろうとするなんて思い至ったのかな・・・



私の身体が不自然なくらい治癒力があるのを、見抜かれた故だとしたら。
それは、ハボック少尉も居酒屋の人たちも、知っているということだ。

ばれちゃったなら、逃げることもなかったかもしれない。
でも今更戻って彼らの反応を見るのも怖い。
今までどおり、優しくしてもらえないかもしれない。


もし・・・もしも、バケモノって言われたら・・・・怖がられたら?





改札で待つ孤児たちと年配の修道女のもとへ行く。

修道女の前で、私は頭巾を取った。
頭巾に収まりやすいようにまとめていた髪のまま、頭巾を修道女に渡す。
年配の修道女は得心したように頷いてそれを受け取った。


「もうすぐ憲兵が迎えに来ます。私は、ここで・・・」
「・・・・行くのね。数日でも一緒に奉仕活動ができて、あなたに会えて嬉しかったわ」
「私も同じ気持ちです。・・・・ありがとう、ございます」


こんな状況で、勝手を許してくれて、ありがとう。
たった数日一緒にいただけの修道女。でも、私にとても良くしてくれた。


「行くあてはあるの?」

私は黙って首を振る。
修道女は、ポケットから紙片を取り出す。
それを私に渡して、にっこり笑った。

紙片には紙幣がはさまれていて、それに気付いた私は驚いて彼女を見た。


「ここからもっと東のお屋敷で、お手伝いさんを募集してるの。
 誰かいないかって、頼まれていたのよ。断るつもりでいたんだけど・・・
今のあなたには都合のいい話かもしれない。そこへ行って、私の紹介と言って」


わたりに船・・・?
これも強運なのか。それとも運命に流されてるのかな。
どうせ先行き不透明な状況だから、行ってみようと思った。


「ありがとうございます。本当に、お世話になりました」



孤児たちにお別れを言って、少し離れたところで様子をうかがっている兄弟に近づく。


「憲兵が来るまでみんなをお願い。エドとアルがいれば安心だわ」
「・・・・はどこか他に行くのか?一緒に孤児と行かないの?」


エドの言葉に頷く。
心配するような視線を受けて、苦笑する。
自分より幼いかもしれない兄弟に心配されるなんて。


「じゃあ、またね」


そう言って、駅に向かった。
修道女がくれたわずかなお金で、切符を買う。


行き先は、ユースウェル炭鉱。
ご主人様はヨキ中尉。・・・・ってどんな人なんだろう?
あんまりいい印象の名前じゃないような気がする。



列車に乗って、東へ向かった。