序章1
ここはどこだろうと辺りを見回す。
真っ白な空間。
真っ白な人影が目の前にいる。
いつから?
いつからこうしていたんだろう?
白い人影が何事かを言った。
何かを聞いて、・・・・・・・だけど、何かを覚えていない。
そのままカラダを引っ張られるような感覚が襲って
はっと気付いた。視界が開けて。
同時に何かが爆発したような、大きな音。
耳をつんざくような、破裂音。
ぱらぱらと零れ落ちる木片や石くず。
そして舞い上がる煙とほこり。寄せる風。
思わず腕をあげて、爆風から身を守る。
ここがどこか、自分が誰か、判然としない。
でも今の状況が、身の危険も伴うくらいヤバイ状況と言うのはわかる。
逃げよう・・・でもどうやって?
足も立たないくらい腰砕けて、一歩も動けない。
「誰か・・・助けて」
声を出してみたら、情けないくらい小さく震えていて
なんだか泣きたくなってきた。泣いてる場合じゃないのに。
ガラッと音を立てて、目の前の塀が崩れる。
崩壊する音と土埃に、本気で不安になった。
どこに逃げればいいかも、いつまでここにいて平気なのかもわからない。
静かになるのを待つ以外、何もできない。
そのままここで死んでしまうのかもしれない。
耳を澄ます。
ガラガラと固いものが崩れる音と同時に、地面をする音が混じる。
あれは靴音・・・
だれかいるの?
でも、声が出ない。助けも呼べない。
「まったく反乱とかテロとか、厄介なもんだ」
「もうあらかた制圧したろ。早く処理してシャワーあびてえよ」
そんな会話が聞こえてきて、そのまま通り過ぎていく。
英語。聞きなれない言語は聞き取るのも難しい。
ああでも・・・・あらかた制圧したって言っていた。
そしたら、もう落ち着くはず。良かった。ここにいても大丈夫・・・
安堵のため息をついた。
少し空を見上げると、建物の隙間からくっきりと青空が見える。
雲が白い。透き通った空が高い。
「・・・・誰かいるのか?」
目の前のガレキの隙間から、男の人が顔を出した。
青い服、黒い髪、ハンサムな顔。
切れ長の瞳。手袋には何かのマークが描かれてる。
目の前の男の人が、私をみて驚いたような顔をする。
ゆっくりと近づいて、私の手の届くすぐ近くで座り込む。
「大丈夫か。怪我はないか」
座り込んでいた私は、声も出せなくて、彼を見つめていた。
「心配いらない・・・必要なら助けになろう。どこか痛むか?」
彼をみつめたまま、首を振る。
「そうか、それなら良かった・・・いまここは、大量の火で吹き飛ばしたばかりだから
まさかこんなところに、怪我ひとつなく無事でいる人間に出会えるとは思わなかった」
その台詞に驚いたものの、一方では納得していた。
あの大きな音は、明らかに爆発音か何かだった。
「運がいいのかな、君は」
ふっと笑いかける彼の顔は、優しい。
「立てるか?まだ崩れるかもしれないから、ここから離れたほうがいい」
促されて、立ち上がろうと試みる。
なんだかカラダが言うことをきかなくて、ふらふらする。
さっきの衝撃やら何やらで、すっかり萎縮してしまったのかもしれない。
「・・・・!」
ふらつくカラダを、彼が支えた。
そのままやむを得ず抱きしめられたような形になる。
すぐ離そうとしない腕。彼の顔を見上げる。
真摯な瞳が見下ろしていた。
「ずいぶん震えているんだな・・・怖かったのか」
怖いのか怯えているのか萎縮しているのかわからない混乱した気持ち。
それが不思議なくらい、この腕の中に吸い込まれるように消えていく。
この腕の中にずっといられればいいのに・・・・
あてのない不安も、寄る辺ない寂しさも、この瞬間だけは忘れた。
それが出会い。
彼にとっては大勢の市民の一人に過ぎなくても
私にとっては運命だった。
