side heroine・・・6
「ねえ、。聞いた?転属よ」
「え?・・・・誰が?」
朝一番に聞いた言葉に、驚いて同僚をみつめる。
まさか別れたことで大佐が手を回してきたとは考えられない。
彼はそういう人じゃない。
「誰って!決まってるじゃない。少佐よ!南方司令部ですって」
「少佐が?南方、司令部・・・?」
少し呆然としてつぶやく。
もう少しで親友が出産する大事な時期に、少佐が転属。
私も副官として一緒に付いてくことになるの?
それとも南方司令部で他に誰かが新しく付くのかしら?
「ね。それ、もう辞令出されてるの?」
「出されてるのよ。それで、少佐があなたも連れて行きたいって」
「え・・・・?」
行きたくない。
思ったことを表情に出しはしないが、言葉が出そうになって飲み込んだ。
同僚は気付かなかった様子で話を続ける。
「そのことで、マスタング大佐があなたを呼んでるの。早く行ったほうがいいわ」
大佐が・・・?
昨日の今日で、一体なんだろう。
執務室に急いだ。
ノックをすると、扉の向こうからいつもの落ち着いた声。
「入りたまえ」
「失礼します」
机の向こうで窓の外を見ていた大佐が首だけ振り返る。
窓から入る朝日を受けて、なんて綺麗。
「少佐がセントラルからの辞令で南方へ移動になった。君と行きたいそうだ」
「・・・・・・・・・・」
それは、命令?
でも、辞令を出してる雰囲気じゃない。
昨日あんな別れ方したのに、大佐の様子はいつもと変わらない。
「勝手に断って、向こうで頑張ってくれと言っておいた。それで、君の今後だが」
「・・・・・・・・・・・・・断った、んですか?」
「いけなかったか?今後は私の直属になってもらおうと思ったんだが」
「・・・・・・・・・・え?」
「それが嫌なら将軍の下でどこか席を」
「ありがとう」
彼の言葉をさえぎって口をついて出たのは感謝の言葉。
一瞬驚いたようにみつめてきたロイの瞳が、私を見て瞬く。
「ありがとう、嬉しい・・・でも、ロイ・・・どうして?」
「どうして、とは?」
「私、ここにいても・・・・貴方の側にいても、いいの?」
「いいよ。親友が落ち着くまでは心配だろう」
なんてことないように大佐が言う。
「私、あなたに酷いことしたのに・・・」
「そうだな。理由を聞いたほうがいいか?」
「言い訳しないわ。そうでもしないと、別れられないと思っただけ」
にこりと笑って言うと、大佐が愕然と私を見た。
彼にとっては思いもかけない言葉だったんだろう。
「きつい言葉だな・・・・」
「ごめんなさい・・・・貴方が好きよ。今でも愛してる」
その言葉も意外だったんだろう。
混乱したように顔をゆがめて、私を見つめる彼の瞳。
「・・・・・・どう解釈したらいいんだろうね?」
「貴方が好き。一番好き。・・・・それでも、一緒にいられないと思っただけ。ごめんなさい」
「別れて、良かったと?」
「・・・ええ、そうね・・・そうかもしれない」
笑って言うと、大佐が近づいてくる。
すぐ目の前に迫って、腕が伸びてきたとき私の笑みが消えた。
触れられるのが、怖い・・・・
ロイの腕が肩に伸びて、片手が頬を凪ぐように撫ぜて髪に触れる。
そのまま抱きしめられたとき、心の奥でプツンと何かが弾けた。
「やめて・・・・!!」
怖い、と思って、体が震えた。
手を伸ばして大佐を拒絶する。
壁に背中を預けるように逃げた私を追い詰めるように、大佐の体が重なってきた。
震える私をあやすように、優しく回される腕。
何度も何度も、この腕の中で幸せを感じたのに。
今は、溺れることがこんなにも怖い。
「・・・・・最初に抱きしめたときも、震えていたね。大丈夫、何もしない」
最初・・・・それは付き合い始めて、すぐの頃。
長いこと何もしないヒトと思っていたけど、そうじゃなかった。
私がずっと、忘れていただけ。
私は覚悟を決めたつもりで、いざとなると怖気づいて。
震えて、腕の中でなきそうになった私を、大佐が気付いて・・・・
あの時も、『大丈夫、何もしない』
――――――――そう言って、笑ってくれた。
そうだった・・・思い出した。
だから、それからずっと、長いこと彼は私に手を出さなかったんだ。
私の心がゆっくりと彼に傾くまで、辛抱強く待っていた・・・・・
彼の気持ちの深くて大きなところに、ずっと守られていた。
そんな事実に気付いても、私の望みが変わることはなくて、それが辛くて涙が出た。
「ごめんなさい・・・・ロイが、すきなの」
「・・・・・うん」
「ちゃんと、守るから。私が側で、あなたのこと」
「それは頼もしい」
「・・・・だから、許して」
「別れることを・・・?」
大佐の言葉に頷く。
彼は諦めたように寂しげにため息をついた。
勝手を言ってごめんなさい。
心で謝った言葉は、彼には伝わったんだろうか。
腕は相変わらず優しくて、私はいつのまにか怖い気持ちが消えてることに気付かなかった。
