side heroine・・・7
マスタング大佐直属の部下になって、今は移動の整理や仕事の引継ぎで忙しい。
あちこちの雑務に区切りを付けて、ふうと息を吐く。
顔を上げると、冷たいコップが頬に触れた。
「ハボック少尉!」
「大丈夫か?だいぶ忙しそうだな」
「大丈夫、あと少しだし」
「メシ、食ってるか?」
ハボック少尉に言われて、はたと気付く。
「いつも一緒に食べてる奴らが、最近食堂で会わないから声かけにきたって言ってたぞ」
「そうだった・・・・私、すぐ行くから先に食べててって言ったきり・・・・」
冷たいコーヒーの入ったコップを受け取って、口を付けずに傍らに置く。
「飲まないのか?」
「最近胃の調子悪くて、コーヒー控えてるんです」
「大丈夫か?吐き気は?」
「吐き気とかはないけど・・・軽い胸焼けみたいな感じ」
「飲みすぎ?」
「飲んでません」
くすくす笑って答える私に、ハボック少尉がつられて笑う。
そういえば、この胸焼けは少尉の告白の件あたりから続いていた。
ずっと治らない・・・いろんなことが一度に押し寄せてきたストレスかもしれない。
でも、あの一件から少尉との関係が崩れることもないし
ロイとは別れたけど、深刻な状態で口も利かないというわけではない。
むしろ、別れる前より素直に接することができるようになった。
以前は、関係がばれることを恐れて、必要以上に上下関係を意識していたような気がする。
ロイのおかげで、少佐とも離れられた。
何も、ストレスになるような悪いことなんかないのに・・・・
釈然としないながらも、気持ち悪さを抑えて仕事を続けた。
吐き気はない。食事も取れる。ただ、なんとなく調子が悪い。
職場環境が変わったせいかもしれない。仕事に慣れたら、収まるかも。
「は、我慢するからな。自分で気付いてないストレスとかもありそう」
「そう、ですか?」
「そうだよ。ほら、メシ食いに行くぞ」
ハボック少尉が私を誘って食堂に向かう。
本当に、お兄さんのように面倒を見てくれる。優しい人。
「とってきてやるよ。何食べたい?」
「お茶・・・」
「お茶、だけじゃハラにたまらないだろ」
何を食べたいか決められなくて言葉を濁した私に、ハボック少尉が適当に選んでくれた。
「胃が弱ってるんだったら消化のいいものだよ。ゆっくり食え」
目の前で旺盛に食べるハボック少尉の様子が、いいなあと思った。
食べ物をおいしそうに食べる人は見てると気持ちいい。
なのに、せっかく持って来てもらったご飯を、私は半分くらいしか食べられない。
おなか一杯・・・・本当に、どうしたんだろう。
「もういいのか?」
「・・・・美味しかった。ご馳走様でした」
半分近く残っている私のお皿を見て、ハボック少尉が思案するように言う。
「ふうん・・・・なんかデザートでも奢ってやろうか?」
「ホント!?」
「食べられるのか?」
「別腹ですから!」
嬉しそうな私に、ハボック少尉が苦笑する。
「その様子なら心配ないか。食べられないほど深刻な悩みでもあるのかと思った」
「残念でした。ハボック少尉、プリンがいいです。プリン」
「あはは。珍しいな、いつもならコーヒーゼリーをご所望なのに?」
「今日はプリンな気分なんです」
「わかったわかった」
喜んで食べたものの、直後から胃が痛くなった。
本当にもう、情けない・・・
健康管理室に運んでもらって、ベットを借りた。
傍らに座って少尉が私の様子をうかがう。
「ごめんなさい、少尉・・・」
「本当に、なんでもないのか?ずっと様子がおかしいぞ」
「胃が悪いだけで・・・他は、何も」
「なんか、痩せてないか?腕が、前より細い・・・」
言いかけて、ハボック少尉が口をつぐんだ。
前というのがいつのことか思い至って、私も何も言えなくなった。
「・・・・・俺の、せい?」
「ハボック少尉?」
「俺が、を困らせたり悩ませたりしてんだったら、嫌だな」
「違います!!そんな・・・少尉には感謝してます。だから、そんなこと言わないで」
きり、と胃が傷んだ。
苦痛に顔をゆがめる私を、ハボック少尉が心配そうにみつめていた。
確かに、最近夜も朝もろくに食べてなかった。
気付いたときだけ、おなかがすいてなくても、義務的に少し食べたような気はする。
でもすぐに胃が痛くなるから、あまり量は食べられなかった。
昼は誘ってくれる人がいるからこうして食べ損なうことなく過ごせるけど・・・
私はこんなに食事に無関心だった?
いったいいつからそうなったんだろう・・・
ハボック少尉が心配して私を見つめてる。
いいためらうように思案して、覚悟したように切り出す。
「・・・・それとも、もしかして、大佐のことで何か・・・?」
「・・・・・・・・・いえ、何も」
別れた、とは言えなかった。
言えば少尉は気にするだろうし、相変わらず私はロイがすきなんだから。
ハボック少尉は優しい人だから、誤解して自分を責めてしまうかもしれない。
胃が、またきりきりと痛んだ。
頭が痛い・・・熱でもあるんだろうか。
「多分、疲れたんです。連日の残業が続いてすぐに移動だったし・・・」
「そっか・・・そういえばそうだった。無理すんなよ」
「ありがとうございます・・・少し寝たら、戻りますから」
ハボック少尉が頷いて、大きな手のひらで私の頭を優しく撫でた。
「ゆっくり休めよ」
微熱が続いたようなだるさと、食欲のなさ。胃の痛み。
たいしたことはないと自分に言い聞かせて、私はゆっくり目を閉じた。
