side roy・・・6




部屋にはいつも白い花。



近所のガーデニング好きな夫人がくれるという。
私にバラをくれた夫人と同一人物とわかって、思い出して微笑む。



この間まであった白いあじさいの代わりに生けられたのは、くちなしの花。
小さなグラスに入れられて、食卓に飾られている。



玄関にはユリの花。
柔らかいフォルムのガラス瓶に生けられたそれは、優しい雰囲気でそこにある。



カーテン越しに吊るされた薄ピンクのバラには見覚えがあった。
最後に訪れたとき、私がに渡したものだ。




「・・・このバラの花だけ色がある。夫人が君にくれるのは、白ばかりなんだな」
「夫人は、人を見て花を選んでくれるのよ。貴方のイメージだったのかもしれない」
「このピンクのバラが?」




そんなロマンチックな外見とは思わなかった。
そういうと、はくすくす笑う。




「夫人は、私のイメージが白だからって。でも、今のうちだけ」
「どうして?」
「じきに白い花はなくなって、庭にはひまわりとか色のある花だけになるの」




部屋中にユリの匂いが満ちて、清潔に整えられた居心地のいい場所。
の場所はいつも優しい空気に包まれて、それが好きだった。




「大佐はベットを使ってください。私はソファで寝るから」
「それはいけない。君は具合も悪いし、しっかり休まないと」




は笑って承知しない。


強引に私の荷物をベットルームに運ぶと、自分はさっさと毛布をソファに持っていく。
そのまま横になって寝ようとする彼女の傍らに、腰掛ける。




「ロイ。邪魔だからベットに行って」
「君は・・・・なんだか、別れて少し変わった」



私が邪魔だと顔をしかめてむくれてみせる。
そんなこと、恋人の頃は見せなかった顔だ。



「別れてからのほうが、気軽に私を名前で呼ぶ」
「そうね・・・・いけないことよね。つい、今更って気がしてしまって」
「なのに、肝心なときに大佐と呼ぶのは変わらない」




がびっくりしたように目を開いた。




「それから、悔しいことに別れた君のほうが魅力的だ」
「え?」
「私のせいで、いろんなしがらみにがんじがらめになってたのが、解放されたのかな」
「・・・・・・・・・・・・・・」




が眉を寄せて目を伏せる。
長いまつげが頬に影を落とす。その様が綺麗だと思った。




「・・・・・・ごめんなさい。私、逃げたの」
「何から?私から?」
「それは・・・・・・言えない」
「なら実力行使だな」



ひょい、とを抱き上げると、抗議の声も無視して勝手にベットへ連れて行く。
ぼすっと音をたててがベットに埋まる上に身体を重ねる。



「ロイ!?」
「上司命令だ。私に抱かれなさい」
「冗談がすぎるわ。何を考えてるの」
「それが嫌なら、逃げた理由を聞かせてくれないか」



一瞬きょとんとしたを認めて、ふと微笑む。
こんな姿勢になっても、私が上司命令でことに及ぶはずがないと信じてる顔。
あんまりそれが可愛くて、ほうっておけずに思わず抱きしめた。



「きゃっ・・・ん、ちょっと!」



頬に口付けて手のひらに指を絡ませる。
の体が弾むように身じろいで、抗議の声をあげる。



「上司命令といったはずだ。答えなさい。さもないと」
「上司命令で貴方は私を抱いたりしない。あなたのこと愛してる、それだけじゃ駄目?」
「駄目だな。言葉だけじゃ足りない」
「私の命をあげるから」




ぎょっとして彼女の顔を覗き込んだ。
見下ろした彼女は、まっすぐに強い瞳でみつめ返してくる。



「・・・・・ぶっそうなことを言うな」
「部下としての務めよ。私が命に代えてもロイを守る」
「仕事としての話なら、まず自分を守りなさい」
「仕事にかこつけた、私の個人的意思よ」
「余計に悪い」



ぐっと言葉に詰まる彼女に、少しあきれた。


一緒にいて、こんなふうにむくれたことなんか今までなかった。
気の強さを見せることがあっても、それは静かな意思の力だけで・・・


意外と子供っぽい顔をする。でも、それがなんて可愛い。
ほほえましくて、このまま腕に居て欲しくて、子供じみた提案をした。



「ではこの話はうやむやにしてもいい。そのかわり条件をだそうか。
 何もしないから、このまま一緒に眠ってしまうってのはどうかな」



がそれこそ本当に驚いた顔をして、私を見つめる。
私が本気で言ってるとわかると、静かな表情で目を伏せた。



断られるかもしれない。





「・・・・・・いいわ。でも、今日だけにしてね」





腕の中の柔らかい身体は、何度も求めた愛しい人そのもので。
でも、以前より確実に痩せたからだは、頼りなくはかなげだった。













司令部に一緒に出勤するわけにもいかず、時間差で家を出る毎日。
別れてから一緒に暮らすようになるカップルなんか、滅多にお目にかかれないに違いない。



「大佐、お話が」
「ホークアイ中尉・・・どうした、何かあったか」
少尉のコードネームのことなんですが」



驚いて中尉を見ると、いつも冷静沈着な彼女が落ち着いた眼差しで私を見ている。


「もうコードネームの仲間入りか?まだ配下になって間もないのに」
「彼女は本当に優秀です。深入りさせて手放せないようにしたほうが得策かと」
「ようするに、君が気に入ったから、ということか?」
「私だけじゃありませんが、認めます。彼女が必要です」



中尉にここまで言わせるは、本当に有能なんだろう。
でも、コードネームを考えても、の名前にちなんだものがうまく浮かばない。



「・・・・そうだな。名前にちなんだ今までの踏襲でなくても構わないだろう」
「というのは?名前をもじらない別名を与えるということですか」
「ああ。コードネームは、ローズにしよう」
「ローズ・・・いい響きですね」



脳裏に浮かぶのは、一面の白に映えるピンクのバラ。
私が渡して、今もの窓辺に吊るされている。



彼女のイメージそのままの白。
バラを渡してくれた夫人から見た私のイメージがバラの花とは頷けないけれど
彼女の未来が私の色に染まるなら、その名の通りばら色がいい。