side heroine・・・10




何も知らない大佐が、空を見上げて天気を気にしている。


空には薄く白い雲がなびき、雨の気配もないほどの晴天。
それを確認して安堵の表情をしたロイの顔が、優しくて綺麗。



私も外を見た。
晴天とは裏腹に、気になる雨の気配。




鳥が低く飛んでる・・・・




「私は少し出かけてくる。将軍のご機嫌取りだけだから、すぐ戻る」
「どちらへ?」
「さあ・・・・将軍しだいかな。まったく、お茶くらい女性を誘えばいいものを」



大佐とホークアイ中尉の会話を聞きながら、言葉を飲み込む。
この中で、正確に事情を知ってるのは、きっと私だけ。




「っ・・・あの、大佐!」



出て行こうとするロイに、思わず声をかけた。
少し驚いた様子で私の側に寄ってくる彼の眼差しは優しい。



「・・・・・・・・あの、傘をお持ちになったほうが良いかと」
「なぜ?こんなに晴れてるのに」
「鳥が低く飛んでます。餌になる虫が、低く飛んでるからです。・・・・もうすぐ雨です」
「そうか。ありがとう」



微笑むロイが、私をじっと見つめる。その笑顔がすこし疑うように首を傾げる。
あんまり晴れてるから、雨が降るなんて聞いてもぴんとこないのかも。



「虫は雨を予感すると、水に濡れないように低く飛ぶんです。葉陰に入りやすいように」
「ああ・・・・それはわかった。どうしてかな?が、泣きそうに見えたから」



驚いて目を丸くした。
いつもどおりに振舞ってるつもりだったのに、どうしてそんなこと・・・。



チャ、と音がして振り向くと中尉が銃を構えている。
大佐と私は、同時に背筋を伸ばして緊張する。
中尉が目をキランとさせて照準を大佐に合わせた。


「中尉・・・それは、いったい何の真似だね?」
「・・・・・・それはこっちの台詞です。に何を?」
「・・・彼女を守ってるつもりか?まいったな・・・」



大佐が苦笑して手を上げる。それを見て中尉も銃をおろした。



「では、行ってくる」
「・・・お気をつけて」



大佐に答えて、出て行く背中を見送る。
そんな私を見て、中尉がため息をついた。



「まったく・・・大佐は貴女とみるとすぐに手を出そうとするんだから」
「・・・そうなんですか?」
「よっぽど気に入ってるんでしょうけど・・・まったく仕方ない上司ね」




実は元彼で、しかも一緒に暮らしてるんです。
そう言ったら、中尉はどんな顔をするかしら?







、ちょっといいか?」
「ハボック少尉?」



呼びかけられて、資料室に連れて行かれる。


以前、少佐の下で調べてたテロ組織の件?
最近、動きが活発になってるし・・・



「なあ。フェリーと付き合ってるって、本当か?」



単刀直入に聞かれて、心臓が跳ねた。
誰にもいってないのに、どうして知ってるの?



「つきあってるというか・・・お友達の延長みたいな・・・」
「それって、付き合うことを承知したってことだろ?」


承知した、というのは結果的にはそうかもしれない。



「・・・・誰にそのことを?」
「誰でもいい。そのこと、知ってるのか?その・・・」



大佐のことを口に出せずに、言葉を濁すハボック少尉。
そんな気遣いに、少し胸が痛んだ。



「・・・・・別れたんです」



ハボック少尉が目を見開いた。
同居してることを、話すべきだろうか?
いろいろ複雑すぎて、何から説明すればいいのかわからない。



「・・・・それでフェリーと付き合い始めたってのか」
「最初は冗談と思ってたら、本気だったみたいで・・・」
「ばか!冗談なわけないだろ!あいつはずっと、のこと・・・」



ハボック少尉が言葉につまった。
フェリー曹長の気持ちを、ずっと前から知っていたの?



「あのな、どうせのことだから、押しに負けたんだろ?何なら俺から・・・」
「ハボック少尉からの断り文句なんかゴメンですよ」



驚いて振り向くと、棚をはさんで堂々とフェリー曹長が立っていた。
隠れていた様子もなかった。ということは、最初からいたに違いない。


「いたのか・・・気付かなかった」


険悪になりそうな雰囲気。ハボック少尉の乾いた声が静かに響いた。


「テロ組織の情報が欲しかったので。で、何をこそこそ話してるんですか」
「お前が、とつきあってるなんて言うからだよ。悪いことは言わない。あきらめろ」



開き直ったハボック少尉が、堂々と言い返した。
私はその言葉にびっくりして、思わず少尉の顔を眺めてしまった。



「こいつ外見は人形みたいに大人しそうだけど、結構キツイ性格してるぜ。
 ・・・・・・・はっきり言っとくけど、お前の手には負えない」


空気が張り詰めて、息苦しい雰囲気。
そんななか、ハボック少尉が言葉を続ける。


「一見トロそうでも、運動神経抜群で格闘術は相当の腕。階級も上。仕事もできる。
 ひとつでもお前の敵うトコあるか?・・・・・・自分でもわかってるんだろ」
「つりあってないって、いいたいんですか」



ハボック少尉の表情が、肯定していた。



「ぼくは、さんのお腹の子が誰の子でも、一生面倒見ていくつもりでいるんです!」


フェリー曹長の爆弾発言に、空気が凍った。
身に覚えのない宣言をされた私は、断る口実に冗談めかして言った言葉を思い出す。
ハボック少尉がものすごい顔で私に詰め寄った。



!妊娠してるのか!?」


驚いて言葉も出ない私は、かろうじて首を振る。
それを見て、今度はフェリー曹長が私に詰め寄る。


「嘘なんですか?そんなに・・・嘘をつくくらい嫌だったんですか?」
「そらみろ。つりあってないって言っただろ」


落ち込むフェリー曹長に、追い討ちをかける少尉をギッとにらむ。
これ以上話をややこしくしてほしくない。



「そうじゃなくて!どのくらいの覚悟で言ってるのかって、思ったから!」
「そうでうよね、好きな人がいるって言ってたですもんね」
「そうなの。だから私」
「それでも、僕を認めてくれたから嬉しかったです」



満面の笑みで信頼の眼差しをむけてくるフェリー曹長に、言いかけの言葉が言えなくなった。



「どんな覚悟でもできてます。誰を好きでも、誰の子供がいても、受け入れます。
 僕のいいところを、もっと認めてもらえるように頑張りますから」




どうしよう・・・



困った私の顔を見て取ったハボック少尉が、助け舟のつもりで口を開く。



「・・・・お前の気持ちはわかったけど、は明らかにお前に気がないぞ」



あまりにもはっきりと自分の気持ちを代弁してくれた少尉に感謝した。



「眼鏡でチビで階級下で、しかも士官ですらない下士官で、甲斐性もないだろ?
 腕力も及ばなくて、機械オタクで・・・・えーと、あと何だ?とにかく、お前じゃ無理」
「ハボック少尉・・・それはいくらなんでも言いすぎです・・・」



ハボック少尉に悪気はない。それはわかる。
けど、言葉を重ねるに連れて明らかに沈んでいくフェリー曹長が気の毒で・・・
つい助け舟を出してしまった。とたん、ハボック少尉が面白くないという顔をする。



「じゃあお前はこいつと付き合ってもいいってのか?こんな眼鏡チビと?」
「眼鏡チビって・・・言いすぎです。フェリー曹長にもいいとこたくさんあります!」





・・・・・・・・何をかばってるの私!!






時すでに遅し。

気付いたときには、へこんだ様子のハボック少尉と、
勝利を得たように嬉しそうなフェリー曹長が目の前にいた。











何もかも手遅れのような気がして、沈んでいく気持ち。
それを叱咤して、自分の選んだ道を正しいと思おうとする私。



ない交ぜになる気持ちの中、ひとつの記憶が浮上した。






『マスタングに娘を断られたよ。見合いをする気はないそうだ』
『将軍のお嬢様を断るとは、ふとどきものですね』
『娘を一目見れは考えも変わるだろうと思うんだがね。わが娘ながらイイ女なんだよ。
 彼が遊んできたどの女も勝てまい。婚姻が成立すれば、上層部の覚えも良くなるしね』



そんな将軍の言葉に、話相手をしていた少佐は嫉妬で顔をゆがめた。
将軍はそれに気付く様子もなく、私の淹れたコーヒーを笑顔で飲んでいる。


『そこまで買われた彼が羨ましいですな』
『ついては、偶然を装って引き合わせてみてはと思ってるんだが、どうだろう?』



少佐の副官をしてたときに聞いた、セントラル勤めの将軍との会話。
その将軍にお茶に誘われたロイ。





黙って見送ったけれど。
それでいいんだと、何回も繰り返した答えだけど・・・胸が痛んだ。




いろんな誤解や思い込みから、ロイと向き合うことにおびえて逃げ出した。
そうしてようやく、いろんな悩みから解放されたと思った。




でも、彼が私を大事にしてくれていた時間に嘘がないことを、今はちゃんと知ってる。





―――――――――――――それでも、私は手を離してしまったのだから。






いずれ来ると知っていたお見合いの話をロイが受けて、
きらきらした未来を約束されて、それでいいんだと思った。



向き合うことも、逃げ出すことも、彼のためになるならどっちを選んだって一緒。





雨が降りそうな雲が、ゆっくりと空を覆っていった。