side heroine・・・11



朝、起きると大佐の姿はなかった。
いつもなら誰かの気配を感じれば必ず目は覚めるのに。



明け方まで眠れずにいたから、そのせいかもしれない。




昨日、改めて私を求めてくれたロイを拒んだ。
これで、決定的に終わってしまった。



ずぐり、と音をたてて胃が痛んだ。
その痛みに驚いて、私は思わず腰を折ってベットに埋まる。
吐き気にも似た胸焼けと内臓が焼けるような気持ち悪さ。



少し時間がたてば収まる。
ココ最近、本当にいつものことだったもの・・・。



胃が空っぽになりすぎたのかもしれないけれど、固体を食べるのは難しかった。
昨夜、ロイが作ってくれたスープの残りを温めて口に運ぶ。




―――――――――――――あ・・・・・・・何?




ぱたぱたと水滴がスープに落ちた。
それが自分の涙と知って驚いて眼を見開く。




感情失禁・・・?




最近忙しかったから、そろそろ体力が限界なのかもしれない。
仕事が落ち着いたら、少し休暇をもらおう・・・。











「おはようございます」
「おはよう、。大佐は今日は午後からだから、そのつもりでね」
「え・・・・?そうなんですか」
「ええ。あと、連絡することがいくつかあるんだけど・・・」



申し送られる事柄をメモしながら、不思議に思った。
大佐はとっくに出勤してると思ったのに、午後から・・・?




でもすぐに、不思議に思うことなんか何もないんだと気付く。




大佐はきっと、将軍のお嬢様のところに行った。
お見合いの返事をするために。







『あなたのするべきことを』
『わかった。そうしよう』





あの会話の中で、ロイは決意したのかもしれない。
きっと、婚姻の承諾をするんだろう。





「以上。今日も激務になりそうね」
「はい・・・」
「最近痩せたわね・・・仕事、きつい?」
「仕事のきつさなんて、みんな一緒です」



軽い笑顔で返すと、中尉が苦笑した。




「大佐は将軍のお嬢様とお会いしてるみたい。お見合いの返事ね、きっと」
「では、いよいよご婚約でしょうか?」



ガタン、と大きな音がした。
ハボック少尉がいきなり席を立ったのだ。
つかつかと歩み寄って、私の腕を掴む。



「・・・・・・ちょっと、こいつ借ります」
「申し送りはすんだからいいけど・・・どうしたの?」



ただ事じゃない様子の少尉に、中尉が怪訝そうに眉を寄せる。
ハボック少尉が何かを言おうとしたとき、扉が勢い良く開かれた。




「た、大変です!!」



フェリー曹長が顔色を変えてオフィスに飛び込む。
一同の視線が彼に集中した。



「どうしたの?」
「最近活発になってたテロ組織が・・・、大きな動きをみせたんです」



中尉の質問に、フェリー曹長が呼吸を整えながら答える。



「将軍の娘を狙って、滞在中のホテルに襲撃を・・・」
「なんですって!?・・・・大佐の向かったところだわ」






原因のテロ組織は、私が少佐の下で情報を集めていた組織と一致した。
判明しているアジトの場所、会合の回数と場所、そして・・・その活動方法。
このメンバーの中では、多分私が一番詳しい。



彼らは過激派で、容赦なく人を殺す。
あまり賢いブレインのいない、勢いだけの集団。


でも、大佐クラスを殺したところで、国軍にも世間にも与える衝撃は微々たるもの。
そのくらいの計算はできる。だから、大佐が直接狙われる心配はないはず。



狙いはきっと、将軍の娘。





ロイ・・・。巻き込まれて下手な怪我なんか、しなければいいんだけど。
将軍のお嬢様と一緒だったら、彼女を守るために身体を張る場面もあるかもしれない。





そうなる前に、私が・・・部隊が、間に合ってくれれば・・・





祈るような気持ちで、武装する。
黒い半そでのタートルにホルターを装着して、弾を確認する。




ハボック少尉や中尉と一緒に、現場に急いだ。
ホテルの近くになるにつれて、何か騒がしい。




憲兵が集まっていた。


「ごくろうさまです。たった今、ホテルから緊急の要請がありまして・・・」
「テロね?」




中尉の言葉に、憲兵が頷く。


将軍の娘が滞在しているホテルだから、念のために護衛の憲兵が付いていた。
警吏担当者が今朝襲撃を受けてすぐ、軍や各方面に連絡をしたのだ。




「どうやら、誘拐が目的だったようなんですが・・・」
「・・・まだ、ホテル内にとどまっているのね」




彼らは誘拐が目的だったのが、うまく実行できずに籠城に切り替えた。
将軍の娘はテロ組織に身柄を拘束されてるんだろうか。




大佐は、中にいるのかしら・・・




白い大きな建物を見上げる。
将軍の娘が滞在していたというホテル。


一流の、荘厳な建物。お見合いもきっとここでしたんだろう。
ここで、大佐は彼女と会って・・・




無意識に唇をキュと結んだ。



どんな未来でも構わない。
ロイが生きていてさえくれれば。



思考を中断して、憲兵に状況を再度確認する。




「将軍の娘はまだ人質にはなってないの?」
「その確認が取れていないということです」
「わかりました。状況がわかり次第司令部に連絡を」
「了解しました」




そのとき、ドンと大きな音がして、建物の一部が破裂したように飛び散った。
煙と粉塵とが空一面に舞う。



あたりの人間が一斉に注目した。
あれは焔の錬金術師である大佐が、何がしかの行動を起こしたということ。



将軍の娘を巻き込む可能性があるうちに、ロイが攻撃をするはずない。
きっと爆発の中心にロイがいて、そこに将軍の娘もいるはず。



案の定、無線で連絡を取り合ってるフェリー曹長から回線が入った。



『将軍ご息女の現在地、判明。周辺の敵の動向に注意せよ』
「了解。大佐とは連絡が取れた?」
『まだです。・・・・さん、気をつけて』





回線をいったん切って、現場に急ぐ。
誘拐が失敗したのも、きっとロイの活躍に違いなかった。