side roy・・・10
ぼん、と音がして壁が壊れた。
テロ組織が設置した爆薬の起爆装置が作動して、角の柱が吹き飛ぶ。
反動で崩れる床。部屋の半分近くが抜けて、穴があいた。
地面まで一直線に崩壊したような音。
粉塵が沸きあがるように舞い上がる。
「・・・・まったく、やることが派手すぎる」
状況に舌打ちする。
市民の苦情が、また司令部に殺到してしまう。
「あの、私を離してください」
将軍の娘が、腕の中で震えながら小さく言う。
うっかり存在を忘れていたけど、今回の事件の中心人物は彼女だ。
「何故?奴らに捕まりますよ」
「だって、このままでは大佐様まで巻き込まれてしまいます。
彼らの目的が私なら、私を引き渡せば貴方は逃げられるのでは・・・?」
「ご冗談を。彼らの目的は貴女ではなく、貴女を人質にして交渉を有利にすることです」
ため息をついてのんびり答える私に驚いたように、将軍の娘が見上げてくる。
普通に会話していたのが気に障った様子で、テロの男がいらいらと銃を向けた。
奴らは皆、同じような黒い布を頭に覆い、顔を隠している。
服装もほとんど似たり寄ったりで、各個人の体型以外に区別がつくのは声だけ。
「・・・・・くそ!!貴様、なぜ邪魔をする!?
それに、なんでそんなに落ち着いているんだ!!」
激昂した実行犯の一人が叫ぶ。
言い返すのは簡単だったが、沈黙して様子を見ることに決める。
奴らは十分頭に血が上って平常心を失ってる。これ以上の刺激は必要なかろう。
今の爆発を誘ったのは私。
まんまと乗ったのは彼らのほう。
手持ちの武器にも限りがあるのに、とっておきであったはずの爆薬を失った。
テロリスト達の動揺は必至。でも、それも自業自得だ。
の報告書の通り、あんまり賢いブレインは揃ってない。
血の気が多くて、勢いでことに当たろうとする。
「・・・・・くそっ。誰だ貴様・・・・!貴様さえ居なければ、計画は簡単に運んだのに!!」
「・・・・・・それは褒め言葉として受け取っておこう」
将軍の娘に会うためにここへ来た。
そのタイミングで襲撃があったのは、本当に偶然だった。
運が良かったのか、悪かったのは別にして。
「さて、もうそろそろかな・・・・?」
時計を見てつぶやくのとほとんど同時に、扉がバン、と開かれた。
間髪いれずに扉からは銃弾の嵐。
私がいることを忘れてるんじゃないかと思うくらい容赦ない。
私の炎のせいで一面に突っ伏したテロリストの山に、何人かが折り重なった。
その後に聞こえてきた第一声は、ハボックの声。
「ご無事で!?」
「無事だ。将軍のご息女を頼む」
「了解!」
ハボックの歯切れのいい声が響く。
どかどかと入ってくる部下に号令をかけながら、状況を見てハボックが苦笑する。
床に転がっているのは銃弾を受けた者だけでなく、焦げた体を抱えてうめく者も多くいた。
その状況を見て、私の行動を察知したんだろう。
「あいかわらず派手にやりましたね」
「ふん。仕事を減らしてやったんだろう、文句を言うな」
「言いませんよ。市民の苦情、書類で届いたら全部処理してくださいね」
「・・・・・・そうきたか」
私とハボックのやり取りを傍目に、が将軍の娘を保護にかかる。
「大丈夫ですか?お怪我は?」
「・・・・・大丈夫です。大佐様がいてくれましたから」
将軍の娘は私を見て、毅然と言う。
この状況で、さっきまで震えていたのに、もう落ち着きを取り戻してる。
さすがというべきか。感心する。
テロリストの生死はともかく、奴らを床に転がしておくわけにもいかない。
彼らを運び出して病院なり檻の中なりに移動させる。
下士官がその任務にあたり、それはすみやかに行われた。
「床、抜けそうですね。はやいとこ撤退しないと」
不気味な音をたてて軋む足元に、不安そうにハボックが言う。
「将軍のご息女をはやく連れて行って差し上げて」
「はい。ですが・・・」
中尉の言葉に、が口ごもる。
将軍の娘が、がんとして動かないのだ。
「私は大佐様とご一緒いたします。こんな形で巻き込んでしまって、お父様に申し訳が立ちませんもの」
「そうはおっしゃいますが、状況が状況ですのでご理解下さいませ」
「いやです。もうテロリストは皆捕まってしまったでしょう?
部隊もついて、ここは大丈夫なはずです。違いますか」
「それはそうですけどね・・・・・ここにいると、床が抜けますよ」
「すぐには抜けません」
中尉とハボックが交互に説得しても、てこでも動かない。
落ち着きっぷりは頼もしいが、これでは仕事に支障をきたす。
はひとり困ったように、中尉とハボックの側に控えていた。
現場は大分落ち着いて、下士官もテロリストを運びだして今は姿が見えない。
部屋は広いが床が抜けてるし、現場は不安定だ。
大勢がここに残るのは邪魔になる。
私が動いて将軍の娘を促して、に渡す。
私の無言の行動に将軍の娘は逆らわない。
が、そんな行動のせいで、将軍の娘との、両方の視線を受けた。
に何も言う必要はない。やるべきことはわかってるはずだ。
私はあえて将軍の娘に視線を合わせて微笑んだ。
「ここは危険です。隠れているテロリストが、まだいるかもしれません。
私も後からすぐに行きますから、どうか先に安全な場所へ行ってください」
まだ何か言いたげな様子だったものの、将軍の娘は不承不承頷いた。
ほっとして、を見る。
思ったとおり、すべてを理解した瞳が見返してくる。
彼女に頷いて、私はきびすをかえした。
「大佐。大佐の落とした床、大変なことになってますよ」
「そうか?」
「下でばんばん燃えてますからね。ここを早く撤退しないと、俺らもヤバイです」
「分かった。隠れてるテロリストの捜索を頼む。それがすんだら撤退だ」
「了解」
ハボックの報告に頷いて、もういちどふりかえる。
に促されて将軍の娘が出て行こうとするのが見えた。
ほっとした次の瞬間、バシンと何かが弾ける音がして、誰かが奇声を上げた。
隠れていたテロリスト。
思ったとおり。奴らは数を頼みに襲撃してきた。
そう簡単には消えてくれない。
