side heroine・・・12



崩れたホテルの部屋の床。
落ちたら、地面に叩きつけられるか、炎に焼かれてしまう。



半分しかなくなった床が、バランスを崩して危なっかしくそこにある。



「ちくしょう!!」



計画が失敗に終わったと知ったテロリストが、憎悪の目を大佐に向ける。
今回の敗因が、彼にあったことを思い知って、逆恨みしてる・・・。




「貴様ぁ!!」



捨て身で大佐へ向かっていくように見えた男が、不意に私のほうへ向く。
私の腕には、守られた将軍の娘。


一見細くて非力に見える私と、細身のお嬢様を前に、男は有利を確信したのだろうか。
でも、私は将軍の娘を中尉に預けて、男に向き合った。


目の前で銃を構える男。
射程距離が短くないと狙えない。腕がない証拠。
私はあっさり彼から銃を弾き飛ばして、組み敷いた。


そのとき、目の端に映った光景に悪寒が走った。



この男が私達を襲ったのは、目くらまし。
物陰に潜んでいたもう一人が、不意打ちで大佐を狙うための囮・・・



「大佐!!後ろ・・・」


大佐は明らかに気付いていた様子で、もう一人の男に向き合っていたのに
私が意識を大佐に向けた瞬間、肩で血しぶきがあがった。



!?」



大佐とハボック少尉の声が響いた。


私は格闘で、いつも必ず相手を倒せるけど、深いダメージが与えられない。
あっさり倒された男は、同じくらいあっさりと復活して、私に引き金を引いた。



「・・・・・・っつ!!」


私に意識を向けた大佐は、せっかく相手が向かってきてるのに気付いていたのに・・・
大佐は男をかるくいなしたものの、もろとも割れた床へと体勢を崩す。


私は床を蹴って、とっさに落ちていく大佐の腕を掴んだ。
もともとない体重がさらに減ってしまった私は、大佐を支えるのに重さが足りない。
私も一緒に下へ引っ張られて、床に這う身体がずるりと音をたてた。



それと同時に、ほんの一瞬の隙に、




―――――――――――掴んだ私の手を、大佐が払った。




落ちてく大佐と一瞬目が合って、
その視線があまりにも穏やかだったから、私はなおさら信じられなくて
スローモーションみたいに遠くなっていくロイへ更に手を伸ばそうと身を乗り出した。



「危ない!!」



ハボック少尉に引きずられるように身体を抱きしめられる。

乗り出しすぎた私の身体は、少尉が支えなければ下へ落ちていた。
それが分かっていても、私はハボック少尉の強い腕から逃れようと懸命になった。



「離して!大佐が・・・!!」


叫ぶのと同時に、ボン!!と、ひときわ大きな音。
床下で新しい炎が爆音と共に舞い上がる。爆風が髪をあおる。




今の爆発は、たった今、ロイが落ちた場所。




ロイは・・・・・・・・ロイは、どうなったの!?






下に広がる炎へ消えていったロイ。
何もできずに私はただ叫んだ。




「いや!!少尉、お願い離して!大佐・・・・大佐!!」
「落ち着け!!」
「ハボック少尉!離してください!」
「大丈夫だから!今の爆発が大佐だとしたら、無事なはずだ」
「・・・・え?」



泣き顔の私は、ハボック少尉の言葉に顔を上げる。
目の前には険しい表情だけど落ち着いてるハボック少尉がいた。




「・・・・・下へ行くぞ。いくら大佐でも、怪我くらいはしてるかもしれないからな」
「怪我くらい、って・・・」



少尉の言葉に平常心を取り戻した私は、改めて状況を確認する。


私を襲った男は、ハボック少尉がとっくに拘束してくれている。
大佐を襲った男は、大佐もろとも床下へ落ちていった。


中尉は将軍の娘を連れてすぐ現場を離れたようで、とっくに姿はみえなかった。
人質の救出後の迅速で適切な行動は、いかにも中尉らしい。


それでも、何の指示もなく私を現場に残して行動したという事は、
それだけ現場における私の行動を、信じてくれているということ・・・。






―――――――――しっかり、しなきゃ





「階下へ大佐の救出へ向かいます。少尉の指示に従います」
「ああ。肩は大丈夫か?」
「平気です」



貫通したから出血はあるけど、たいしたことない。
へたくそな人。あの距離で致命傷を狙えないなんて。



「少尉、大佐は・・・?」
「あの人が、ただ落ちてく可愛いタマか?
 衝撃吸収と炎を消すために、わざわざ自分で地面に向けて一発かましたんだよ。
 だから、落ちた瞬間に爆発が起こった」
「あ・・・・・・・・!」



燃え盛る炎を、発火布で放つ炎で相殺する。
同時に、爆風で地面に叩きつけられる衝撃を少しでも和らげる。



大佐はあの一瞬で、それだけのことをして見せたのだ。






「まあ、それでもあの高さだから、無傷じゃないだろうな。・・・急ぐぞ」



少尉の指示に従って、階下へ急ぐ。
地面に到達すると、先程より収まったものの、まだ小さな炎があちこちにちらついている。



「大佐!!」


炎と瓦礫と粉塵の中、変わり果てた青の色は簡単に景色に同化していた。
土ぼこりにまみれて茶色くなった大佐をみつけて、駆け寄る。


ごほ、と咳をして、横たわるロイがかすかに動いた。



「大佐、大丈夫スか?」
「・・・・・・だ、いじょうぶ、な・・・わけ、あるか」
「意識はとりあえず大丈夫そうっすね」



少尉が、うずくまっていた大佐を仰向けて、呼吸の状態や身体の怪我を確認する。
あばらに触れたとき、ロイが呻いて、ハボック少尉が眉をひそめる。



「ばっきり折れちゃいないですが、ヒビいってるか、酷い打撲くらいはありますね」
「・・・・・・くそ・・・っ・・・」



ふうっと息をつくロイが、それでも私を探してにっこり笑う。
泣きそうな私は、生きてるロイを目の前にして顔がますます涙で歪む。



「・・・・・・・無事、か・・・?・・・・・良かった」



大佐のほうが、よほど酷い状態です。
そういいたかったのに、言葉にならなかった。





大佐を病院に見送って、憲兵に指示を出すハボック少尉を手伝う。



残りのテロリストを逮捕して、現場の収拾を始めた憲兵を横目に、息を吐いた。
ようやく、終わった。



・・・・・・なんだか、疲れたな・・・。




「おい。もうここはいいから、も早く病院へ・・・」
「・・・・・・え・・・・?」




少尉に視線を向けると、二重にぼやける視界。
周りの景色が揺れてる・・・・



ふと自分の手を見ると、止血したと思った肩から先がぬめる。



あ・・・・・・・、これ良くないかも・・・





うっすらと意識が遠のく。
ハボック少尉が腕で私を支えてくれる。
どうやら、倒れかけたみたい・・・・だけど、なんて自覚がないの。




「ばか!無理ばっかして・・・・!」



ハボック少尉の声が遠くに聞こえた。
無理してるつもりはなかったけど、気が抜けたんだろうか?



プロとして、軍人として、こんな結果は恥ずかしい。
中尉ががっかりするだろうな・・・・。




浮遊感と抜けていく力が私を完全に支配して、
瞬きするみたいに瞳を閉じてから、私は意識を手放した。