side heroine・・・13





夢を見た。



目の前に、泣いている自分の姿。




どうして、泣いてるの?





私の疑問に答えは返ってこない。
逆に泣いている私が、私に問いかけてくる。





――――――――どうして・・・?




どうして・・・?




――――――――ロイは私を好きだと言ってくれたのに・・・




そう。そう言ってくれた・・・




でも、夢を叶えるためには、将軍の力が必要だったはず。
誰が側にいても、私は彼を守るつもりでいたの。







―――――――あの手をとっていれば・・・







もう一人の私が、私を見つめて涙を流す。
それは責めるというよりも悲しみをこめた瞳。







ねえ、あなたは、誰?
私とそっくりの姿をした、あなたは・・・・
どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?







ふと、白いヴェールが視界を揺らす。
私の姿が空気に消えて、目の前の人物が変わる。



目の前に現れたのは、親友で元同僚だったヴィクトリア。




は昔から強いから、揺るがないもの。頼りにしてるの」



少佐とロイの間で揺れていたとき、ヴィクがそう私に言った。



ヴィクから尊敬の眼差しを向けられて嬉しいと思う反面、
大変な状況の彼女に、弱みを見せることができなくなった。



だから、ヴィクは私の悩みを知らない。
私の卑怯な心を知らない・・・



は強いから・・・」



無垢で純粋な彼女の笑顔。
真っ直ぐみつめることが、私にできる?




・・・私だって、弱い。




今だって、大佐が好きでたまらないのに、側に居続けることを拒んだの。




ハボック少尉と大佐が殴りあいをしたと聞いて、
それがきっかけで誤解がとけて、
ほっと安心したのに・・・・別れずに、すむと思ったのに。



不安が押し寄せてきた。



ハボック少尉が誤解を解いてくれたけど、そうでなければ別れていた。
それは、私がそれだけの存在ということ。


そして、ロイの周りに常にある数々の浮名。いろんな噂話。
私が居なくてもきっと、このひとは寂しくない。大丈夫なんだと・・・




ひねくれていた自分。


そんな自分が嫌で懸命にもがいて
ますます深みにはまる思考回路。




そうして心に満ちる、堂々巡りの、答えのない嫉妬で歪んだ暗い泥。






つぶれそうな不安感と、彼への強い想いに押し流されて、感情がいっぱい溢れて、





―――――――――――――――私は大佐から逃げ出した。







目の前の白いヴェールがはがれて、さっきの泣き顔の私がそこにいる。
そしてもうひとつ、幼い姿の私が並ぶ。



さっきまでは、確かに大人の私だけがいたのに・・・




幼い私。




『逃げたんでしょう?守るって言葉を口実にして、本当は逃げたんでしょう?』




舌足らずの、幼い私が、懸命に私を責める。




『弱虫!!意気地なし!』




小さなこぶしで叩く手に、逆らうことができなかった。
本当に、そうだね・・・私は、ずるくて意気地なしの弱虫。



そんな女の、どこが良かったの?ロイ・・・趣味、悪いわよ。





(どうして私は、あの手を取らなかったの?
 私が手を離さなければ、違った未来が待っていたの?)






何度も何度も未来の自分は繰り返し後悔する。
それを覚悟して、あの時手を離した。



意気地なしの弱虫も筋金入りなら、強がりも一流になるの。
自分の気持ちを誤魔化して、見ないふりして、気付かないふりをするの。





『・・・・そんなの、間違えてるよ!』




幼い私が、私に訴える。





薄桃色のバラに埋まるロイが、対岸にいる。
それに気付いて側に行こうとするのに、なぜか遠くなっていく。
たくさんのバラと一緒に、川に流されるように離れていく。



追いかけても、辿り着けない。





――――――――――手遅れになってから、後悔するのよ




もう一人の私がささやく。








分かってる。
そんなこと、分かってるの。



分かってるのに、どうしたらいいのか分からないの。
自分の気持ちがわからない。


立ち止まりたいわけじゃないのに。





・・・・・・・歩き方が、分からない。








幼い私と、大人の姿のもう一人の私を前に、
とうとう私は行くことも戻ることもできずに立ち尽くした。




『じゃあヒントをあげる』




幼い私が私に問いかける。
いつかみた、あどけない顔の私。




『・・・・私の望む未来は、どこ?』





そんなこと、決まってるでしょう?
そこだけはずっと変わらない願いだもの。





――――――――私の願う未来は、ロイの望む未来。






もう一人の私が答えた。
その答えに、私は頷いた。









自分の存在で彼の未来を潰したくないと思った。



そのためなら、恋しく思う気持ちも抑えてみせる。
彼が望む未来を手に入れるためなら、なんでもする。



それがロイと向かい合うことへの恐れでも逃げでも構わないから。





彼の望む未来。
それは、この国のトップに立つことのはず。










ふいに風がふいたように景色が変わる。



ふと手が伸びてきて指が絡む。
それがいつのことか、誰のものかすぐに分かった。



場所は私の部屋。ダイニングテーブル。向かいに座るのは、ロイ。



私が、手を離した場所。





ずっと後悔するに違いない決断を下した。
それでも、ロイが進む未来のためなら・・・。






「プロポーズをするなら私は君に」






ああ、そっか・・・・それが、ロイの望む未来。






―――――――――彼の望む未来は、ひとつじゃない。







どこからか聞こえた声。
ふいに一陣の風が吹いた。




ぽんと投げ出された場所は、地平線の見える大地。
草むらの匂い。晴れた空に浮かぶ雲。果てしない青。




そして、天に向かって雄大に伸びる虹・・・