side heroine・・・14
目を開けると、そこは白い壁に囲まれた病室。
私、どのくらい眠っていたんだろう?
視線を動かすと、目の前にハボック少尉とフェリー曹長とホークアイ中尉。
三人もここに来てしまったら、大佐についてるのは誰?
ホークアイ中尉と視線があった。
「・・・・中尉、申し訳ありません」
「いいえ、は良くやってくれたわ。無事でよかった」
そう言ってくれた中尉にほっとする。
「も目が覚めたし、私は大佐のところへ戻るわね」
「大佐の怪我は・・・」
「大丈夫。衝撃のわりに軽いものよ。だからこっちの様子を見にこれたんだもの」
「・・・・・良かった」
安堵のため息をつく私に微笑んで、中尉が優しく言った。
「さ。はもう少し寝たほうがいいわね。血の気のない顔・・・。ゆっくり休んで」
眠れるかどうか分からなかったけど、中尉の言葉に頷いて瞳を閉じた。
残されたのはハボック少尉とフェリー曹長。
二人とも、私が寝れば持ち場に戻るだろう。
「ハボック少尉・・・ひとつ聞いてもいいですか」
「何だ?」
寝息とも取れる私の呼吸の安らかさに、眠っていると思ったのかもしれない。
フェリー曹長が静かに言った。ハボック少尉が答える声も、なんとなく静か。
「・・・・・さんの相手って・・・・・・・。・・・・やっぱり、いいです」
「・・・・・ふうん。どこで気付いた?」
途中で言葉を濁したのに、ハボック少尉が質問を返す。
フェリー曹長が、静かに苦笑した。
「・・・・・・だって、見てれば分かりますよ。さん視線が違うんですもん」
「あのさ、それって最初からわかってたってことか?」
ハボック少尉は、相変わらず歯に衣着せない。
フェリー曹長は、そんな少尉にこともなげに肯定の笑みを返す。
「・・・・・え!?って、おまっ・・・・」
「そんなに驚かないで下さい、さんが起きる」
「だって・・・、お前・・・何も知らない顔してを口説いてたくせに・・・」
「諦めたくなかったから。何もしないで終わりたくなかったから、賭けたんです」
苦笑するフェリー曹長が、言葉をつなぐ。
「見た目ほど僕は純粋でも素朴でもないんです。
こうして、ない頭使って一生懸命あがいたりして」
「・・・・・・・・お前」
ハボック少尉の気遣う声に、フェリー曹長が明るく応える。
「でも参りました。あんなに仕事ができて賢い人なのに、恋愛は下手ですね、さん。
嘘も適当な誤魔化しも言えばいいのに、言わない。正直で、真っ直ぐで、不器用で」
「こらこら・・・」
「不器用だけど、一生懸命で、誰にでも優しい」
「・・・・・・・・・・」
「僕に対しても秘密の恋すら打ち明けて、駆け引きナシで誠実でいようとしてくれた。
優しいさんに甘えて僕は・・・僕を断る言葉に、気付かない振りをしたんです」
「うん、それは・・・そうかなって思った。いくらお前でも、そこまで鈍くないもんな」
フェリー曹長が、ひどいなぁ、と笑う。
ハボック少尉が苦笑を返して、病室が少し明るい雰囲気になる。
「少尉の肩の怪我・・・・大佐のためですよね」
「・・・・・・・・・・・・ああ、そうだな」
任務の怪我、ではなくハッキリと『大佐の』とフェリー曹長が言った。
「・・・・・・・だから、もういいです」
ハボック少尉が驚いたように視線を向けた。
「いいって?諦めるのか?」
「もう十分、あがきましたから」
にっこり笑って、フェリー曹長が席を立つ。
そのままドアへ向かおうとする彼に、ハボック少尉が独り言みたいに声を出した。
「・・・・わかんねぇな。そこまであがいて何で今諦める?」
「ハボック少尉は役得すぎなんですよ」
きょとんとする少尉に、フェリー曹長がいつもの困ったような顔をする。
「気付いてるようで気付いてないんですか?さんの慰め役は、いつも少尉でしょう。
鋭いと思えば変に鈍かったりするくせに、肝心なトコで必ず美味しい役とるんですから」
「あのなぁ、慰め役が美味しいって変じゃないか?俺、振られてんだけど」
ハボック少尉の言葉に、フェリー曹長が低く唸って何か思案する。
「確かに。・・・・・振った人間を慰めるなんてお人よし、少尉にしかできないかも」
「おいこら・・・」
「嘘です。そういう意味じゃなくて・・・。分からなければ、それでいいです」
真面目な言葉に軽くショックを受けたハボック少尉がフェリー曹長をたしなめる。
それを受けて、また軽い笑い声を上げるフェリー曹長は、今度こそドアへ歩き出した。
「ゲームは終了、もう解放してあげます。
―――――――そう、さんに伝えてください」
パタンと閉じられたドアに、「ゲームじゃねえだろ」とハボック少尉が低くつぶやく。
フェリー曹長の真意は結局うやむやにされた。
でも彼の気持ちが痛いほど分かった。
『もう解放してあげます』
私のために、選んでくれた。私の側から離れることを。
自分の気持ちを犠牲にして・・・。
ずっとずっと胸に秘めて、目をそらしていた気持ち。
今まで向き合わずに逃げ続けてきた気持ち。
同じ思いを抱えた誰かに自分を重ねて、ようやく分かった。
誰かを好きになると、誰でも同じ気持ちを経験するんだろうか?
相手の気持ちが分からなくて不安になって
独りよがりになって、想うあまり身勝手にもなるんだろうか。
それでも最後に辿り着いた答えが、本当に正しいと信じて。
私が辿り着いたと思った答えは、自分の気持ちに背を向けて選んだ道。
私・・・本当は、ロイと別れて、すごく辛かった・・・・
「―――――――おい。聞いてたんだろ?この、タヌキ寝入り」
ハボック少尉が私に言った。
もう限界だった。寝たふりも、涙をこらえることも。
涙が溢れそうなまぶたを手のひらで覆って、私は声を殺して泣いた。
「ごめんな・・・・・」
ふいに少尉が私の髪に触れながらささやいた。
しゃくりあげながら私は黙ってそれを聞き流す。
「・・・・俺、ずっとわかってなかったんだな」
いったい、何を?
聞いてみたかったけど、声にならない。
「は、俺に新しい恋人ができたと誤解したとき、あっさり身を引いたよな。
俺はてっきりそれを、俺に対しての気持ちが薄かったせいだと思い込んでた」
誤解?誤解だったの?
そんなこと今まで知らなかった。
少尉が私の気持ちをどう考えていたのかさえ。
「・・・・違ったんだな。本当は・・・・傷ついていたんだろう?」
「・・・・・・・・少尉?」
「だから・・・・・もともと恋愛にはオクテだったのに、余計に臆病になった。違うか?」
「・・・・・・・・・・」
傷ついてなんかいない。
大佐を想うみたいな深いえぐるような気持ちはどこにもなかったもの。
少尉との恋愛は、コドモみたいな恋愛で。
側に居ることが、とても楽しかったけど。
とてもとても楽しかったけど。
その時間が永遠に続くと信じて疑わなかったのは、幼い私。
だから、少尉の隣に私じゃない女のヒトを見て、コドモの私は、少し寂しかった。
そう。ちくりと胸が痛んで・・・・・そして、とても強くこみあげてきた想い。
『誰のものにもならないで。もういちど私の側にいて』
それはとてもコドモじみたワガママ。
でも、あの時その言葉がいえていたら少しは違った未来があったんだろうか?
私は何も言えなくて、ただ沈黙を守って、身を固くして胸の痛みが過ぎるのを待ってた。
私は、あのときから何か成長できたのかな・・・
ハボック少尉は、優しく髪をなでながら、側にいてくれた。
私が泣き止むまで、ずっと。
