side roy・・・11
「大佐は眠ってるんでしょうか」
「・・・さあな」
「少佐の方は、ハボック少尉とフェリー曹長がついてるそうです」
「ああ、知ってる」
カーテン一枚隔てて、ファルマンとブレダの声が聞こえる。
「・・・・ブレダ少尉は、本当は初めから少尉狙いじゃなかったんでしょう?」
「・・・・・どうして、そう思う?」
「今、ここで大佐のそばにいるからです。本気になったブレダ少尉なら、必ず攻めます。
きっと、少尉の側にいるでしょう。将棋の仕方を見てれば分かります」
「・・・・・・・・そっか」
かるく嘆息するブレダは、少し思案して打ち明け話をするみたいに声を更に潜めた。
「ここだけの話だぞ。他では一切漏らすなよ。
とは学生のとき、成績優秀者の集まりがあってさ・・・そこで初めて会ったんだ」
「少尉に?」
ブレダが頷く。
「可愛いくて頭もいい。運動神経抜群。何より一緒にいて楽しい。・・・・好き、だったよ」
「告白しなかったんですか?」
「小細工を弄して自滅したのさ」
「・・・・・・?」
ファルマンの言葉に、自嘲の笑みを返すブレダ。
「俺が座学の面倒を見てる同級生だと言って、ハボックをに紹介したんだ。
奴は実技はいいけど座学が駄目で、年下ののほうがハボックより優秀だった」
「なんで紹介なんか・・・」
フン、と鼻をならして、ブレダがあごをしゃくる。
「ハボックの勉強を見てやってたら、俺が頭いいのが際立つだろ。いいトコみせたくてさ。
俺の面倒見の良さで、彼女の好印象を得たいと思ったんだよ・・・・そしたら、さ」
ブレダがそこで一息ついた。
「ある日、気付いたんだ。ハボックがを好きだってことに・・・」
「それで、諦めたんですか?」
「まさか!」
ファルマンの言葉に、ブレダが間髪要れずに否定する。
「逆だよ。『へえ、お前が好きなのか?』ってからかった。
あせったハボックが否定すると見て、わざとそうしたんだけどな」
「ああ、しそうですね・・・」
「だろ?ハボックの性格なら、絶対そうするって思ったんだけどなぁ」
「え・・・・?」
ブレダが思い出して舌打ちする。
「あいつ、悪びれもせずに『好きで悪いか!?』って言い返しやがった。
はっとしてを見たら、まるで告白されたのがはじめてみたいに赤くなってた。
がハボックを意識し始めたのは、多分そのときからだ」
思いがけないとハボックの馴れ初めに、耳をそばだてる。
ブレダは側で一部始終を見ていたのか。
「ぼーっとして眺めてたんですか?ハボック少尉に持ってかれるのを」
「決定的になるまでは、それなりにあがいたけどな。開き直った人間には敵わない」
「・・・・ですね。ハボック少尉は狙ったら駆け引きなしで一直線ですからね」
「も、素直で・・・恋愛を知らなかったから、好意を寄せる相手に対して簡単だったな」
は学生時代から、そんなに幼い恋愛観しかなかったのか。
私と一緒にいたときも、初々しさがずっとあって、不思議だと思っていた。
想いを寄せる男は、本当に多かったのに。
「意外ですね。少尉はもてたでしょう」
「ああ。俺も意外だったけど・・・・学生の俺らにとって、は高嶺の花だったから。
誰も簡単には側に近寄れなかったんだ。ライバルの数も半端ないし、邪魔もすごかった」
「それで・・・・誰にも踏み荒らされずに、長いことオクテでいられたんですね」
ブレダが頷く。
「・・・・それからずっと側で見てた。だから、今は・・・」
「ブレダ少尉?」
「のことは可愛いよ、今でも。守ってやりたいと思う。助けてやりたいともね。
・・・・・でも、が幸せで居られるなら、それだけでいい」
その言葉に、ファルマンが苦笑する。
「・・・・まるで、お兄さんみたいですね」
「最初がハボックだったからな。バカだから、アイツ。さっさと手放して終わったけど」
ブレダが仏頂面で言葉を返す。
ふいに、ブレダの視線が私に向けられたような気がした。
「・・・・・・でも、今度大佐がを手放したら、その時は俺が本気出して奪います。今度こそ」
――――――ああ、こいつもか。
いつから気付いていたのか知らないが、私の部下は本当に油断ならない。
事情を知らなかったらしいファルマンのあせった声がする。
どういうことか問いかける彼に、ブレダが黙ってフンとそっぽを向く。
仕方なく身体を起こす。
私の行動に気付いて、ファルマンとブレダが側につく。
「大佐、どちらへ?」
「・・・・もこの病院に収容されたんだろう?そこへ行く」
ぬけぬけと聞いてくるブレダに、行き先を告げる。
ブレダが我が意を得たり、といった風情でふっと笑った。
「・・・・・大佐・・・」
遠慮勝ちにファルマンが声をかけてきた。
彼の視線の先には、病室の扉。
そのむこうに、将軍の娘が立っていた。
病室を人払いして、将軍の娘を招き入れる。
お見合いのことを話すのに、断る場面に他人がいないほうがいい。
将軍の娘に恥をかかせるのも、自分が断られる場面を部下に見せて恥をかくのもゴメンだ。
「お怪我がなくて、何よりです。この度は、とんだ騒動に巻き込まれて大変でしたね。
こんな事態になってしまって、お父上はさぞお怒りでしょう」
「いいえ。お仕事の手間を増やしまして、こちらこそ申し訳なく思っております。
父のことは、怒る筋合いもありませんでしょう。こちらは助けて頂いたのですから」
静かな病室に、ふわりと風が吹いてカーテンを揺らした。
将軍の娘の、長い髪がそよぐ。
「あなたは魅力的な方ですから、殿方は皆、ほっておかないでしょうね」
「それはそのまま、お返しいたします。殿方の目当ては皆、私ではなく父の・・・・将軍のほうですわ。
才覚と力を自らのみに頼るような立派な方は、簡単に私に近寄りません」
なかなかしっかりした娘に育ったものだ。
自らの境遇に溺れることなく、立場をわきまえて、聡明に物事を見ている。
「そんな立派な人間かどうかは別としても、私は貴方の夫にふさわしくないのです」
「・・・・・・・それは、残念ですわ」
「将軍のことは尊敬しております。貴方のことも立派な方と存じておりますが」
「ご心配には及びませんわ。私のほうからお断りして差し上げます。
そうすれば父のほうも、今後に差し支える悪感情は残さずに済みます。
それでよろしくて?」
「ありがとうございます」
ほっとして将軍の娘をみつめる。
無表情の娘は、形ばかり綺麗な顔から一切の感情をなくした能面のように私をみつめる。
「本当に、残念ですわ」
「え・・・?」
「私、貴方となら結婚しても良いと思ってましたのに」
「・・・・・・・てっきり、意にそぐわない見合いなのかと思っておりました」
「冗談じゃないですわ。私、その気もない男性の職場にまで押しかけたり致しません。たとえ父の言いつけでも」
将軍の娘は、紅茶とクッキーの缶を差し入れに来てくれた。
あの時、私は彼女が将軍に無理やり遣われたのかと思っていた。でもそうじゃない。
彼女は私の行動や言葉から、どのくらい脈があるかを確かめるために来たのだ。
「・・・・・他に、想う方がいらっしゃるのね」
「そうなんです」
「さっさとお近づきになればよろしいのよ。貴方ほどの方なら、女性は喜んで言いなりになるでしょう?
どうしてさっさとそうなさらないの?」
「それが・・・・なかなか手ごわい女性でして。そう簡単でもないんです」
苦笑する私に、将軍の娘が無表情のままつぶやいた。
「・・・・そういう女性だから、貴方を夢中にさせることができたのですね」
そうかもしれない。
でも、そうじゃないかもしれない。
の魅力はそういうことではなくて、
ひそやかにある誰も見向きもしないような幸せに、そっと気付かせてくれるような・・・
凛として落ち着いた佇まいで、清らかに生きている。
軍という場所にそぐわない、真っ白な花のように。
だからこそ、弱いくせに、とても強い。
無性に会いたかった。
そうしたら
――――――――を抱きしめて、もう二度と離さない。




ココまで読んでくださりありがとうございます。次で最後です。
長かった・・・・ようやくここに至って、感無量です。
最終話、最終チェックだけなので、あんまりお待たせしないでお届けできると思います。
推敲し始めてドツボにはまらなければ・・・。
綺麗に終わらせるって難しくて、これでいいのかって悩み中です・・・。(また・・・)