side heroine・・・3





あんなに酔ったわりには、二日酔いは軽くて済んだ。
酒量が少なかったせいかもしれないし、しっかり眠れたからかもしれない。



「おはよ。眠れたか?」
「はい・・・」



私とは対照的に、なんだか目が赤いハボック少尉・・・眠れなかったのかもしれない。



「・・・・の寝ぼけた顔、初めて見た」
苦笑する少尉に、申し訳ない気持ちになった。



「そんな顔するな。安心した。昨日あんなことしたから、警戒されて嫌われたと思った。
 しっかり眠れてるかって、ちょっと心配していたから・・・」



優しい少尉の言葉。
ふと、泣きたい気持ちになった。
私はいつも昔から、この人に甘えてる。



「朝飯、用意したからこっちこいよ。顔洗ってきな。タオルかしてやるから」



少尉に促されて洗面所で顔を洗う。
タオルで簡単に顔と身体を拭く。それだけでもなんとなくスッキリした。



キッチンへ行くと、少尉がミルクをたくさん入れたコーヒーを手渡してくれる。
朝の光がまぶしくて、部屋を明るく照らしてくれる。
時計は、まだ朝の6時。



ベーコンエッグとトーストの朝食が用意されていた。



「おいしそう。少尉ってマメなんですね。私何もしなくてすみません・・・」
「いいよ。そのかわり、昨日のことは」
「・・・なかったことにしていいですか?」



ハボック少尉が、残念そうに笑って頷いた。
元に戻れるなら、あの頼れる先輩でいてほしい。
それがワガママだと分かっていても。



「いいよ。そのかわり、大佐とのことでどうしようもなくなったら、俺のところに来いよ」
「それはないです。恋愛で、少尉には甘えません。昨日が最初で最後」



そういうと、やっぱり少し残念そうに少尉が笑う。



「昨日あんなに泣いたくせに・・・強がっても無駄だよ。俺にはお見通しなんだから」
「・・・・・約束ですよ。昨日のことはなかったことです。忘れてください」



マーマレードのジャムでトーストを少し食べる。
でもあんまり食欲はなかった。せっかくのベーコンエッグも、無理して少しのどに通す。
結局半分くらいをなんとかコーヒーで流して、食事をやめた。



「あんまり食欲ないのか?」
「ごめんなさい・・・美味しかったです。でもちょっと二日酔いしてるみたい・・・」

本当は二日酔いなんてほとんどなかったけど、胸焼けしたみたいにモノが入らない。
コーヒーのおかわりを断って、席を立つ。



「そろそろ帰ります。少尉も出勤の準備しますよね?私、非番だから・・・
 迷惑かけてスミマセンでした。明日から、またよろしくお願いします」



玄関を出たところで、まるで引き止めるように少尉が突然私を抱きしめた。
それは本当に突然で、私はその腕のたくましさにただ圧倒された。




この腕が昨日、私を抱こうとした・・・




ハボック少尉が震えていた。
我慢を重ねて、今まで私に優しくしてくれていたんだと分かった。



「ごめん・・・・手を離したら、ちゃんと諦める。それまで・・・今はこの腕の中にいてくれ」



私をぎゅうっと抱きしめる大きな腕。温かい体温と、震える肩。
この部屋にいて、立ち去れば二度とここにはこない。
それがハボック少尉は分かってて、だから立ち去る私を引き止めた。


この力強い腕の中では、私はあまりにも脆くて、簡単に壊れてしまいそうだ。
きつく締められた身体が痛みを訴えても、少尉を拒めなかった。



「・・・・・・・う・・」
「・・・・あ、ごめん!苦しかったか」



締められて呼吸が止まって、苦しくて洩れた声に気付いたハボック少尉が私を解放する。
空気が肺に戻ってきて、おおきく深呼吸した。



ふう、と息をつく私をハボック少尉が複雑な顔で、見つめる。





・・・ちゃんと、大佐に言葉で気持ちを伝えてる?」
「え・・・・」
「今みたいに、我慢していると何も伝わらない。それじゃだめだ」
「少尉・・・」
「俺の気持ちを思って、ぎりぎりまで我慢して腕の中にいただろう?」
「あ・・・・・・」
「そういうふうに、大佐にも我慢してるから辛くなるんだ」



たったいま振られたばかりで、こんな心配をしてくれる少尉は、本当にお人よしだと思う。
私は、じっと少尉をみつめた。



「おひとよし・・・ですよ。でも、ありがとうございます」
「俺もそう思う。フラレタばっかりなのにな」


少尉が苦笑する。



「でも、ま。大人しく抱きしめられてくれたから嫌われてないって自信もてたよ」
「キライだなんて・・・そんなこと」
「・・・大佐のことは大丈夫だ。ああいう人だけど部下の俺が言うんだから、信用していい」
「・・・・ハボック少尉」



優しく微笑む先輩の顔。
こうやって、私を送り出して見送って、自分の恋を諦めてくれる気持ちの大きな人。


その笑顔を背中に感じながら、私はハボック少尉のアパートを後にした。
時計は6時半より前を指していた。