side heroine・・・4




ぐずぐずに泣いて眼が真っ赤に腫れている。
見るに耐えない私の顔。



ロイのぬくもりは、優しく身体に残って、なおさら辛くなる。



こんな時でも、あの人はなんて優しく触れてくるんだろう。
裏切られて傷ついて、本当は怒っていたんでしょう?



それなのに、痛いことも、無理強いもしない。
ロイに抵抗することはないけど、きっと抗えば彼はそれを受け入れてた。


女性には、とっても甘いひと。
誰にでも、そうやって触れてきたの?



浮名を流して、誰にでも好かれて、愛されて。
人を信じることに長けていて・・・しっかりした未来への希望を抱いてる。






私を探して街中を走り回ったと言っていた。
事件に巻き込まれたのかと、何か事故があったのかと心配して。
ロイだって、毎日残業続きで疲れていたはずなのに。




私のために身をすり減らすようにロイが走り回ってる間、
・・・・私はハボック少尉のベットに居た。






悲しそうに私をみつめるロイの顔が脳裏によぎる。
苛立ちを私にぶつけることなく、ただ苦しそうに私を抱いた。
私の身体に何かを探すように触れてきた。



ハボック少尉に抵抗した、その跡くらい残っていたかもしれない。
それを見て、またロイは誤解するんだろう。












午前中いっぱい泣いて、泣きつかれて少し眠った。
晴れ上がった空に浮かぶ高い太陽の位置で、今が真昼間だと知る。



ゆっくり起きて、ぼんやりする頭でシャワーを浴びた。



ベットと部屋の掃除を簡単にする。
マメに整頓してるから、いまさらやることはあまりない。



窓から入る風が頬を凪ぐ。
涙に濡れた頬がひんやりと心地よい。






今の私の状態はきっと、当然の報い。










少尉は、誰か決まった人がいるのか?」
「いえ。いません」
「では・・・私と付き合ってみないか?」
「承知いたしました」
「・・・・・・・・・・・・・まるで命令を受けたみたいな口調だな」



私の返答に、くすくす笑いながら嬉しそうにロイが言った。
それが始まりだった。






本当は、そのとき直属の上司である少佐に、口説かれていた。
それを内緒にして、大佐の申し込みを受けたのは理由がある。


少佐は、私の同僚に手を出して、妊娠させていた。
彼女の父親は大尉で、それも古参兵からのたたき上げ。
娘が上司に受けた仕打ちに、怒るどころか礼を言った。


最後にお見舞いに訪れたとき、彼女は泣いていた。


「下士官なら責任追及なのに、上司だと『ありがとうございます』になるのよ・・・」
「そんな、まさか・・・・」
「軍隊の縦社会は知ってたけど、こんなことまで・・・。女なんて損だわ」
「・・・・・・」


泣き崩れる同期の親友に、かける言葉も見つからなかった。
そのまま退役していく彼女を見ていて、この世界の掟を知った。


上官には逆らえない。




友人をあんな目にあわせておきながら平然と私を口説いてくる少佐。
こんな事態になった彼女を守ろうと、彼女の側にいた私に目をつけた。
自分の直属の上司でありながら、本当は顔を見るのも嫌だった。


少佐の申し込みを断るには、それ以上の位の士官将校と付き合えばいい。



まるで娼婦みたいだわ・・・。



自分の行く末を思い悩んだころ、ハボック少尉に再会して。
でも、彼の隣には自分じゃない女の人がすでにいた事を思い出して。
もうこの人を頼ることもできなくなったんだ、と途方にくれた。



そんなころに当時中佐だったロイが私を何かと気にかけるようになって。
それと同時に、それに気付いた少佐は私へのアプローチに慎重になった。



これ幸いとばかりに、私はロイの言葉に乗っかって、わが身の保全を図った・・・。






自分でもわかってる。卑怯者。
卑怯者・・・のはずだったのに・・・。





こんなに溺れたのは計算外。
この結末は、自分への罰。






もし今、彼女のように子供ができたら?
彼女のように退役して、育てていくことになるんだろうか。
ロイは責任感の強い人だから、きっと結婚を言い出すだろう。


それが、将軍からも目をかけられてる出世頭の彼のプラスにならないのは確実。





・・・・・・そうならなくて、良かったんだよね。




欲しかったな。ロイの子供。
順序が違う、とハボック少尉は怒りそうだけど。




思い出して、少し笑みがこぼれた。
良かった。私はきっと、まだ大丈夫。
そう自分を励ます。涙がまた頬をこぼれた。




情緒不安定・・・・・・。


こんなんじゃ、だめ。
もうきちんと、覚悟を決めよう。



これはきっといつか私が選んでいた道だから。